私と離婚してください。

koyumi

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一体どれだけ

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どれだけ離婚届を突きつけても、ビリビリになって返されることが続き、(やっぱり裁判しかないな)と覚悟を決めていた頃、実家が九州の祖父方に引越しを決めてしまった。

快復はしたものの、久々に豊かな田舎の自然の中で過ごした両親は、そのまま田舎暮らしを始めると決めたのだ。
熟年Uターンである。

段差の多い祖父方をリフォームすべく、この、長年住んだ家を壊し、土地を売ることにしたらしい。
私には2つ下に弟がいるが、親戚を頼りに九州の大学に通っていて、就職もあっちでするからと、実家の引越しを、大いに喜んでいる。

「私も行きたい…」

と思ったが、

「俺もついて行く」

と、諭の横槍が入り、どこまでも私を追うことが想像できた。

それからも、「反省してる」と口ばかりの平謝りが続き、私は精神的に追い込まれていた。

一度、いっそのこと病院に入院してしまおうかと、精神科受診を試みようとしたが、本当に辛そうな患者さん達を目の当たりにし、名前を呼ばれる前に帰宅してしまった。

こうなると、結局頼れるのは自分しかなく、私はがむしゃらに就活に励み、一般職だが割と給料のいい会社に就職することができた。
大抵の場合、私がすでに結婚していることを知ると、手のひらを返したように拒否されたが、そこだけは別だった。
男性の育休にも力を入れていて、女性の部長もいる会社で、トップが夫婦でやっているという異色の会社だった。

諭はなかなか就職が決まらず、焦っているのかと思いきや、4人目の女の尻を触っていた。

見たのだ。

同じように、リクルートスーツを纏い、一見真面目そうに見える女だったが、近くで聞いた話し口調は、口は悪いがバカ丸出しな感じだった。

たまたま私は両親に頼まれた土地売買の件で、オフィス街を歩いていた。
そこに、諭に良く似た背格好のリクルーターがいるなぁと目を凝らしたら、本人だったというわけだ。

ーー知り合いだと思われたくない…

その一心で、私は来た道を引き返して、適当な喫茶店に入り、休憩した。

その喫茶店は、割と年配の常連客で埋まっていたが、なぜか馴染んでしまい、私はそれからも度々足を運んでは現実逃避していた。


もう、諭の浮気が4人、5人、6人と続けば、私は無言を貫いた。
問い詰めないし、家を出ることもしなかった。

「依子も自由にしちゃったら?」
なんて、軽々しく友達の可菜子は言うけれど、なかなか私を誘う人は現れない。

なぜなら、諭が毎晩のように、私の項にキスマークをつけるからだ。
ひどい時は、鎖骨にもつけられている。
それはヤッタかどうかじゃなく、寝てる間に勝手に吸われているのだ。

「うーん、諭くん、依子のこと好きならやめればいいのにね、もしかしたら病気なのかな?セックス依存症?みたいな。」

私もそれを考えたこともあるが、全ての浮気相手とヤってるわけではないらしい。
諭にデートに誘われた10人目くらいの女が、手をつけて貰えず、何故かそこに逆上してうちのマンションの下で待ち伏せしていたことがある。

この時は、管理人常駐のオートロックマンションに住んでいて良かったと心から思った。
玄関までくれば、何されてたかわからないし。私が諭の妻だと知られれば、こっちにも火の粉がかかるのだ。

「なんでしなかったの?」
なんて聞けるわけないけど、諭本人が言っていたし、私はその女の横を通り過ぎてもいる。
変装しなくちゃいけないのは諭ただ1人なのに、1週間くらいは怖くて、マスクに伊達眼鏡で外出した。
ゴホゴホと、偽咳しながら歩いてたら、本気で風邪を引いてしまった。
喉の無駄遣いはしてはならない。

ただ、そうやって、我関せずの状態を続けている日々は、長続きするわけがなかった。いや、私の心は『長すぎだろ』ととっくの昔に根を上げているか。


結婚5年目を迎えた頃から、私は誰かに後をつけられる感覚を覚えた。

まるで探偵ごっこのように、逆待ち伏せをして、犯人を捕まえた。

期待外れにも、それは女だった。
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