5 / 28
第5話
しおりを挟む
午後7時。地方のデパートの閉店は早い。都市部のデパートに憧れ、勤務したかったけど、早く帰宅できることは有り難かった。
いつものように制服から私服に着替え、化粧室で軽くリップをひく。
やはり、いつものように婦人服売場御一行と鉢会う。
「知ってるー?真ん中の人。」
「え?どうしたの?まさか真ん中も?」
「そうなの。昨日見ちゃったんだよねー。」
「ひぇー、マジ?あの人めっちゃいいパパって感じなのに。誰よ誰よ?」
(えぇ?やばくない?原岡さん、バレちゃってますよ!)
”真ん中”の人とは文字通り真中さんで、”見ちゃった”とは、原岡さんとのことだろう。他人とはいえ同僚だし、雛実はこの場にいていいのだろうかとオロオロしたくなった。だが、ここで慌てて余計目立つのは避けたい所。
「それが、地下よ、地下。洋菓子関係の子だった。若すぎるでしょってツッコミたくなるくらいよっ。」
「洋菓子?あ、まさか、あの子?」
(は?地下?6階じゃないの?しかも若すぎるなんて、原岡さんはいい年頃だし、今話してる婦人服売場の人よりは年上だし。どういうこと?二股不倫?)
聞き耳を立て続けたかったが、不意にメールを知らせるバイブがジャケットのポケットで鳴り響き、タイムアウトとなった。
もちろんメールの送信者は細川さん。
【19時45分に◯△食堂の奥個室にいます。】
奥個室か、確かに仕事の話だから、聞かれたらマズイこともある。
私は特に疑いもせず、わかりましたと返信した。
19時40分、食堂に着き、細川さんの名前を出すと、すんなり奥個室に案内された。この食堂、名前は食堂だが、夜は居酒屋と呼んだ方がいい賑わいである。
おでんに串に、美味いもの三昧だが、雛実が特に好きなものはここの餃子で、何度か主任や他の女性従業員と来たこともある。
ただ、奥個室は初めてで、未知の場所であった。
やはり、細川は忙しいのか約束の時間になっても来ず、なんとなく手持ち無沙汰の雛実は、先に生ビールをいただいていた。
あまりビールは好きではないが、ただ待ってるだけの時間に焼酎を1人飲むのはイタイ女にしか思えず、特にメニューを見ずにいかにもツウのように「生ひとつ」と、席に着くなり頼んでしまった。
年中無休のデパートは、休みも皆バラバラで、仕事帰りに食べることはあっても飲むことは少ない。
一人暮らしを始めた雛実は、この時少々羽目を外すことに抵抗がなかったのだろう。
いつまで待っても来ない細川をアテに、餃子と生ビールを何度も口に放り込んでいた。
「悪い悪い、部長に捕まっちゃって、連絡もせずにこんなに待たせてしまって申し訳ない。」
時計を見るなら、現在20時50分であった。かれこれ1時間以上も雛実は1人で飲んでいたのである。しかも、途中から生ビールはやめて、いつものように芋焼酎の水割りにグラスの中身は代わっていた。
「あー、細川さん、やっと来ましたねぇ。お疲れ様です。いつもいつも大変ですもんね。大丈夫ですよ私なら。ぜんっぜん待てますからぁ。」
浮ついた相手なら気づかないだろうが、このデパート随一の遊び人と言われる細川には、雛実が既に酔っ払いであることは見て取れた。
雛実はお酒を飲んでも顔に出ず、どちらかといえば色白くなるので、知らなければ気づかれない。だが、喋ってしまうと、言葉の端々にしまりが無くなり、これがまた男の気をそそることを本人は気付いていない。
元カレにしても、「ごめーん、ほんとぉはもうダメなの。酔っ払っちゃって、フラフラなのぉ。」と言う雛実の、自分にしかわからない一面を見せられたことに単純にドキっとし、堕ちてしまったという経緯があるのだ。
それは、目の前の細川にしても同じで、個室に入った時は特にわからなかったが、喋った風から気付いた雛実の酩酊ぶりに、狼の雄叫びを窓から叫びたいくらいにモチベーションが上がった。
「雛実ちゃん何飲んでるの?まさか水割り?」
「はぁい。わたし、ビールあまり好きじゃないからぁ、焼酎好きなんです。あ、芋、芋ですよぉ。麦より芋派ですからぁ。」
話しながらもニヤニヤとしながらグラスを持ち上げる雛実は、既に本日の細川のメインディッシュに選定されていた。
細川は、たちまち自分の生ビールを注文し、おでんを何個か持ってきてもらうと、対面で座っていたのに、雛実の隣に席を移動し、ピッタリと寄り添っていたが、雛実が危険を察知するには注意力が欠陥しすぎた状況であった。
いつものように制服から私服に着替え、化粧室で軽くリップをひく。
やはり、いつものように婦人服売場御一行と鉢会う。
「知ってるー?真ん中の人。」
「え?どうしたの?まさか真ん中も?」
「そうなの。昨日見ちゃったんだよねー。」
「ひぇー、マジ?あの人めっちゃいいパパって感じなのに。誰よ誰よ?」
(えぇ?やばくない?原岡さん、バレちゃってますよ!)
”真ん中”の人とは文字通り真中さんで、”見ちゃった”とは、原岡さんとのことだろう。他人とはいえ同僚だし、雛実はこの場にいていいのだろうかとオロオロしたくなった。だが、ここで慌てて余計目立つのは避けたい所。
「それが、地下よ、地下。洋菓子関係の子だった。若すぎるでしょってツッコミたくなるくらいよっ。」
「洋菓子?あ、まさか、あの子?」
(は?地下?6階じゃないの?しかも若すぎるなんて、原岡さんはいい年頃だし、今話してる婦人服売場の人よりは年上だし。どういうこと?二股不倫?)
聞き耳を立て続けたかったが、不意にメールを知らせるバイブがジャケットのポケットで鳴り響き、タイムアウトとなった。
もちろんメールの送信者は細川さん。
【19時45分に◯△食堂の奥個室にいます。】
奥個室か、確かに仕事の話だから、聞かれたらマズイこともある。
私は特に疑いもせず、わかりましたと返信した。
19時40分、食堂に着き、細川さんの名前を出すと、すんなり奥個室に案内された。この食堂、名前は食堂だが、夜は居酒屋と呼んだ方がいい賑わいである。
おでんに串に、美味いもの三昧だが、雛実が特に好きなものはここの餃子で、何度か主任や他の女性従業員と来たこともある。
ただ、奥個室は初めてで、未知の場所であった。
やはり、細川は忙しいのか約束の時間になっても来ず、なんとなく手持ち無沙汰の雛実は、先に生ビールをいただいていた。
あまりビールは好きではないが、ただ待ってるだけの時間に焼酎を1人飲むのはイタイ女にしか思えず、特にメニューを見ずにいかにもツウのように「生ひとつ」と、席に着くなり頼んでしまった。
年中無休のデパートは、休みも皆バラバラで、仕事帰りに食べることはあっても飲むことは少ない。
一人暮らしを始めた雛実は、この時少々羽目を外すことに抵抗がなかったのだろう。
いつまで待っても来ない細川をアテに、餃子と生ビールを何度も口に放り込んでいた。
「悪い悪い、部長に捕まっちゃって、連絡もせずにこんなに待たせてしまって申し訳ない。」
時計を見るなら、現在20時50分であった。かれこれ1時間以上も雛実は1人で飲んでいたのである。しかも、途中から生ビールはやめて、いつものように芋焼酎の水割りにグラスの中身は代わっていた。
「あー、細川さん、やっと来ましたねぇ。お疲れ様です。いつもいつも大変ですもんね。大丈夫ですよ私なら。ぜんっぜん待てますからぁ。」
浮ついた相手なら気づかないだろうが、このデパート随一の遊び人と言われる細川には、雛実が既に酔っ払いであることは見て取れた。
雛実はお酒を飲んでも顔に出ず、どちらかといえば色白くなるので、知らなければ気づかれない。だが、喋ってしまうと、言葉の端々にしまりが無くなり、これがまた男の気をそそることを本人は気付いていない。
元カレにしても、「ごめーん、ほんとぉはもうダメなの。酔っ払っちゃって、フラフラなのぉ。」と言う雛実の、自分にしかわからない一面を見せられたことに単純にドキっとし、堕ちてしまったという経緯があるのだ。
それは、目の前の細川にしても同じで、個室に入った時は特にわからなかったが、喋った風から気付いた雛実の酩酊ぶりに、狼の雄叫びを窓から叫びたいくらいにモチベーションが上がった。
「雛実ちゃん何飲んでるの?まさか水割り?」
「はぁい。わたし、ビールあまり好きじゃないからぁ、焼酎好きなんです。あ、芋、芋ですよぉ。麦より芋派ですからぁ。」
話しながらもニヤニヤとしながらグラスを持ち上げる雛実は、既に本日の細川のメインディッシュに選定されていた。
細川は、たちまち自分の生ビールを注文し、おでんを何個か持ってきてもらうと、対面で座っていたのに、雛実の隣に席を移動し、ピッタリと寄り添っていたが、雛実が危険を察知するには注意力が欠陥しすぎた状況であった。
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
【R18】お父さんとエッチした日
ねんごろ
恋愛
「お、おい……」
「あっ、お、お父さん……」
私は深夜にディルドを使ってオナニーしているところを、お父さんに見られてしまう。
それから私はお父さんと秘密のエッチをしてしまうのだった。
【R18】短編集【更新中】調教無理矢理監禁etc...【女性向け】
笹野葉
恋愛
1.負債を抱えたメイドはご主人様と契約を
(借金処女メイド×ご主人様×無理矢理)
2.異世界転移したら、身体の隅々までチェックされちゃいました
(異世界転移×王子×縛り×媚薬×無理矢理)
彼女の母は蜜の味
緋山悠希
恋愛
ある日、彼女の深雪からお母さんを買い物に連れて行ってあげて欲しいと頼まれる。密かに綺麗なお母さんとの2人の時間に期待を抱きながら「別にいいよ」と優しい彼氏を演じる健二。そんな健二に待っていたのは大人の女性の洗礼だった…
【R18】やがて犯される病
開き茄子(あきなす)
恋愛
『凌辱モノ』をテーマにした短編連作の男性向け18禁小説です。
女の子が男にレイプされたり凌辱されたりして可哀そうな目にあいます。
女の子側に救いのない話がメインとなるので、とにかく可哀そうでエロい話が好きな人向けです。
※ノクターンノベルスとpixivにも掲載しております。
内容に違いはありませんので、お好きなサイトでご覧下さい。
また、新シリーズとしてファンタジーものの長編小説(エロ)を企画中です。
更新準備が整いましたらこちらとTwitterでご報告させていただきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる