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勘違い
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後部座席に押し込まれるや否や、夫は運転席に座り、エンジンをかけた。
「やっ、あんた、最低じゃん!仮にも常務でしょ?どうすんのよっ?楠本さん、めっちゃテンパってるよっ!」
「煩いなっ。とにかく俺は認めていない。お前は家にいればいい。俺だけを待ってればいい。それだけだ。」
「なっ…」
ちょっと前半と後半で温度差ありすぎなんだけど?!
束縛したいってわけ?
「お仕置きだ。」
車は白昼堂々ホテルに入庫し、無理やり私を車から降ろすと、しっかりと腕を掴み、『D和洋』と書かれた部屋のボタンを押すとエレベーターに乗り込んだ。
夫婦だから。
夫婦なんだから。
いつかは通る道。
でも、
私たちにはあり得ないと声高に叫んでいた。
それなのに、私が逃げずにここまで来てしまった理由。
彼の、宗一郎の耳が、派手に赤くなっていたから。
きっと話せばわかってくれる。
今、したくてここに来てるんじゃない。
宗一郎に、その気はない。
ドアを開け、なんともいえない濃い空気に惑わされる。
不意にキスをされたが、それは一瞬で終わる。
ベッドに腰掛けた宗一郎は、私を見ずに口を開いた。
「頼むから……心配するようなことをしないでほしい。」
「心配するようなことって、私、早速何かやらかしてたの!?」
まだスタッフとして入ったばかりなのに、まさか常務の耳にまで入るような失敗をしたのかと一気に緊張感が増した。
「ああ、やらかしたよ。だから、2度とギャラリーに入ったり、会社に来たりするな。母さんには俺から断りをいれておく。」
あぁ、どうしてなんだろう?何がダメだったんだろう?
こんな場所でギャラリー運営やっていけるのかって、偉そうに口を出したからだろうか?
それとも、次期社長夫人のくせに、休憩室の自販機で、美容にいい自社販売の高級茶を選ばずに、1番安いパック飲料をがぶ飲みしたことが恥じと思われたのだろうか?
思い当たることは無きにしも非ずで、両手で顔を抑えながら俯いた。
「ごめんなさい…」
「…ぇ」
「謝るから……お義母さんには、私が直接謝るから…もう、子供じゃないんだし…自分のしたことは、自分で頭下げるから…」
「い、いや、何もしなくていいんだ」
「いや、ダメよっ。私、嫌いなの!そういう人任せなのって!だから、何をしたかくらいは教えてくれない?」
「……………」
黙り込む夫を見て、相当ヤバいことをしたのだと、ゴクリと唾を飲み込んだ。
が、
「…ごめん…」
「…は?」
「だから…ああっ、なんでわからない?俺はお前を好きだと言ってるだろ?
なんで何も相談しない?
なんで勝手に1人で決める?
楠本なんかと一緒に絵を見るなっ。」
「楠本、さん?………うわっまさか、まさか、嫉妬したのが理由ってわけ?」
「…なんだよっ。悪いのかよっ!ったり前だろ?何を好き好んで楠本なんかの近くにお前を置くんだ?!」
夫はそう声をかけ荒げると、ガバッと私に覆い被さり、この部屋の正しい使い方を身を以て示し始めた。
「んんん…ヤダ…ヤダヤダヤダヤダ!!」
5歳児の如く、ヤダを連呼した私に、流石の夫も体を離す。
「あ、ハァハァっ、あのさっ、楠本さんってなんかあるの?タラシとか、そんな不誠実な噂があるわけ?」
「…さぁ…知らない…」
「わかった。ただ、あんたは私が妻なのが恥ずかしいってことね。それを楠本さんのせいにして、はっきり言えばいいじゃないっ!」
「はぁ?全く話が繋がらないなっ、お前は!俺は嘘をついてない。楠本とお前を一緒の場所に置いとけないっ!
嫌なんだよっ。お前は俺だけを待っていればいい。俺だけに頷いてくれたらいい。
もう隠さないからなっ。煽ったのはお前だぞっ。俺がどれだけお前を待っていたと思ってる?
俺の過去も、今も、きっとこの先もずっとお前に惹かれてしまう俺の苦しみがわかるか?
俺の想いをこれからぶつけてやるっ。」
夫は有りっ丈の想いを口にして、再度私に覆いかぶさる。見た目以上に感じる抱擁の大きさに、今度こそ逃げられなかった。
いや、逃げなかった。
正直、腰が砕けそうなくらい痺れた。
夫の言葉に、体の奥底から頭の天辺まで幸せの電磁波が駆け巡って居た。
私は愛されているのだ。
なぜだがわからないが。
「やっ、あんた、最低じゃん!仮にも常務でしょ?どうすんのよっ?楠本さん、めっちゃテンパってるよっ!」
「煩いなっ。とにかく俺は認めていない。お前は家にいればいい。俺だけを待ってればいい。それだけだ。」
「なっ…」
ちょっと前半と後半で温度差ありすぎなんだけど?!
束縛したいってわけ?
「お仕置きだ。」
車は白昼堂々ホテルに入庫し、無理やり私を車から降ろすと、しっかりと腕を掴み、『D和洋』と書かれた部屋のボタンを押すとエレベーターに乗り込んだ。
夫婦だから。
夫婦なんだから。
いつかは通る道。
でも、
私たちにはあり得ないと声高に叫んでいた。
それなのに、私が逃げずにここまで来てしまった理由。
彼の、宗一郎の耳が、派手に赤くなっていたから。
きっと話せばわかってくれる。
今、したくてここに来てるんじゃない。
宗一郎に、その気はない。
ドアを開け、なんともいえない濃い空気に惑わされる。
不意にキスをされたが、それは一瞬で終わる。
ベッドに腰掛けた宗一郎は、私を見ずに口を開いた。
「頼むから……心配するようなことをしないでほしい。」
「心配するようなことって、私、早速何かやらかしてたの!?」
まだスタッフとして入ったばかりなのに、まさか常務の耳にまで入るような失敗をしたのかと一気に緊張感が増した。
「ああ、やらかしたよ。だから、2度とギャラリーに入ったり、会社に来たりするな。母さんには俺から断りをいれておく。」
あぁ、どうしてなんだろう?何がダメだったんだろう?
こんな場所でギャラリー運営やっていけるのかって、偉そうに口を出したからだろうか?
それとも、次期社長夫人のくせに、休憩室の自販機で、美容にいい自社販売の高級茶を選ばずに、1番安いパック飲料をがぶ飲みしたことが恥じと思われたのだろうか?
思い当たることは無きにしも非ずで、両手で顔を抑えながら俯いた。
「ごめんなさい…」
「…ぇ」
「謝るから……お義母さんには、私が直接謝るから…もう、子供じゃないんだし…自分のしたことは、自分で頭下げるから…」
「い、いや、何もしなくていいんだ」
「いや、ダメよっ。私、嫌いなの!そういう人任せなのって!だから、何をしたかくらいは教えてくれない?」
「……………」
黙り込む夫を見て、相当ヤバいことをしたのだと、ゴクリと唾を飲み込んだ。
が、
「…ごめん…」
「…は?」
「だから…ああっ、なんでわからない?俺はお前を好きだと言ってるだろ?
なんで何も相談しない?
なんで勝手に1人で決める?
楠本なんかと一緒に絵を見るなっ。」
「楠本、さん?………うわっまさか、まさか、嫉妬したのが理由ってわけ?」
「…なんだよっ。悪いのかよっ!ったり前だろ?何を好き好んで楠本なんかの近くにお前を置くんだ?!」
夫はそう声をかけ荒げると、ガバッと私に覆い被さり、この部屋の正しい使い方を身を以て示し始めた。
「んんん…ヤダ…ヤダヤダヤダヤダ!!」
5歳児の如く、ヤダを連呼した私に、流石の夫も体を離す。
「あ、ハァハァっ、あのさっ、楠本さんってなんかあるの?タラシとか、そんな不誠実な噂があるわけ?」
「…さぁ…知らない…」
「わかった。ただ、あんたは私が妻なのが恥ずかしいってことね。それを楠本さんのせいにして、はっきり言えばいいじゃないっ!」
「はぁ?全く話が繋がらないなっ、お前は!俺は嘘をついてない。楠本とお前を一緒の場所に置いとけないっ!
嫌なんだよっ。お前は俺だけを待っていればいい。俺だけに頷いてくれたらいい。
もう隠さないからなっ。煽ったのはお前だぞっ。俺がどれだけお前を待っていたと思ってる?
俺の過去も、今も、きっとこの先もずっとお前に惹かれてしまう俺の苦しみがわかるか?
俺の想いをこれからぶつけてやるっ。」
夫は有りっ丈の想いを口にして、再度私に覆いかぶさる。見た目以上に感じる抱擁の大きさに、今度こそ逃げられなかった。
いや、逃げなかった。
正直、腰が砕けそうなくらい痺れた。
夫の言葉に、体の奥底から頭の天辺まで幸せの電磁波が駆け巡って居た。
私は愛されているのだ。
なぜだがわからないが。
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