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第35話
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10分も経たないうちに、その医者はやってきた。
『コンコン』
「はい……」
「失礼致します。若奥様、お医者様がお見えになりました。」
そう言って入ってきたのは先程の美人秘書、本宮さんと、これまた美人女医の方々だった。
本宮さんは、私のことを若奥様と呼んだ。つい否定しようと口が動いたが、余計な事も言いそうでやめた。
2人は、私の姿を見るなり、はっと驚いた顔をしてあからさまに夫の上着を見ていた。
(私なんかの体に社長の上着がかかってるなんて、確かに変だわよね……)
「すみません、わざわざお越しいただいて……」
「いえ。若奥様の為ですから。どの辺りがお痛みですか?」
「あ、肩甲骨辺りが……」
「どういったことが原因か、お心当たりはございますか?」
「はぁ、夫が慣れないことをしてきたので……あ、いえ、あの」
参った。
ここで夫が関わっていることは言うべきじゃないのに。
「社長が?ですか?」
ほらほら、案の定、2人とも良からぬ事を想像しているではないか。
「いえ、あの、夫と同じ車内にいると、緊張してしまって、体が変な体勢で固まってしまって、それで」
「あ、あぁ、ええ、なるほど。車内で……なんとなく理由はわかりました。大丈夫ですよ。ご夫婦なのですから。私達には守秘義務が課せられておりますので、ご安心下さい。」
「いえ、だから、その、私の独り相撲で」
「若奥様、うつ伏せになって下さいね。私はこう見えて、整体もできる医者ですから。」
「はぁ……」
完全に誤解された。
その後、あれよあれよと体を動かされ、《ゴキッ》とどこかが鳴った瞬間、嘘のように体が軽くなった。
「すごい!すっごくいいです!」
整体初体験だが、素晴らしい技だ。
彼女の名前は多賀すみれ先生。スレンダーでロングヘアを一纏めにした美人女医。
こうしてみると、夫の周りは本当に美人揃いだ。まるでハーレム。
そこに、私みたいな平々凡々な輩が嫁として現れ、誰も納得していないだろう。
だが、彼女達から刺々しい視線を感じないのは何故か?
ライバルとも思えないほどのレベルだからか?
「またお痛みすることがありましたら、直接私にご連絡下さい。すぐに参りますから。」
「本当にご迷惑おかけしました。ありがとうございました。」
「……本当に……。社長は素晴らしい方ですね。間違っておられない。」
「はい?」
「まぁ、私としたことが……お忘れ下さい。私などが社長を評価するような言葉を口にしてしまうなど、言語道断ですね。それでは、若奥様、お大事になさって下さいね。失礼しました。」
最後は焦ったように狼狽えて、多賀先生は出ていった。
本宮さんも、
「無事、痛みが治まったようで何よりです。では、私も秘書室に移りますので、何かございましたいつでもお声かけくださいませ。そちらの受話器を取り、3を押せば秘書室に繋がりますので。」
と、言って退室していった。
なんだか申し訳ないような、でも、えらく大切に扱われていて、ほんの少し居心地もいい。子供の頃から一度は夢見たことがある光景だからだろうか。自分が特別な厚い待遇を受けるということを。
ただ、実現したはいいが、終わりが見えているのは切ない。
☆☆
それから30分ほどして、夫が社長室に戻ってきた。
そうだ。
私はお世話係なのだ。
夫の姿を見て、現実に戻った。
「どうだ?体の具合は」
「おかげさまで、すっかり良くなりました。」
「そうか。多賀先生が来たと聞いたが。」
「はい。綺麗な方でした。」
「それならよかった。」
ん?
なんだその感想は。
「多賀先生は人気があるから、手すきじゃなかったら別の奴が来る恐れもあるからな。まぁ、本宮がミスしないとは思ってはいたが。」
「でしょうね。すごい腕だと思いました。美人だし、あんな綺麗な人に整体してもらえるなんて。女の私でもドキドキしたし。」
「は?何言ってる?お前、まさかそっちの趣味が……だとしたら、女医もダメってことか!?」
急に慌て始めた夫の意図することがわからず、そっちのと言われたことにあまりピンと来なかった私は、後々後悔することになる。
『コンコン』
「はい……」
「失礼致します。若奥様、お医者様がお見えになりました。」
そう言って入ってきたのは先程の美人秘書、本宮さんと、これまた美人女医の方々だった。
本宮さんは、私のことを若奥様と呼んだ。つい否定しようと口が動いたが、余計な事も言いそうでやめた。
2人は、私の姿を見るなり、はっと驚いた顔をしてあからさまに夫の上着を見ていた。
(私なんかの体に社長の上着がかかってるなんて、確かに変だわよね……)
「すみません、わざわざお越しいただいて……」
「いえ。若奥様の為ですから。どの辺りがお痛みですか?」
「あ、肩甲骨辺りが……」
「どういったことが原因か、お心当たりはございますか?」
「はぁ、夫が慣れないことをしてきたので……あ、いえ、あの」
参った。
ここで夫が関わっていることは言うべきじゃないのに。
「社長が?ですか?」
ほらほら、案の定、2人とも良からぬ事を想像しているではないか。
「いえ、あの、夫と同じ車内にいると、緊張してしまって、体が変な体勢で固まってしまって、それで」
「あ、あぁ、ええ、なるほど。車内で……なんとなく理由はわかりました。大丈夫ですよ。ご夫婦なのですから。私達には守秘義務が課せられておりますので、ご安心下さい。」
「いえ、だから、その、私の独り相撲で」
「若奥様、うつ伏せになって下さいね。私はこう見えて、整体もできる医者ですから。」
「はぁ……」
完全に誤解された。
その後、あれよあれよと体を動かされ、《ゴキッ》とどこかが鳴った瞬間、嘘のように体が軽くなった。
「すごい!すっごくいいです!」
整体初体験だが、素晴らしい技だ。
彼女の名前は多賀すみれ先生。スレンダーでロングヘアを一纏めにした美人女医。
こうしてみると、夫の周りは本当に美人揃いだ。まるでハーレム。
そこに、私みたいな平々凡々な輩が嫁として現れ、誰も納得していないだろう。
だが、彼女達から刺々しい視線を感じないのは何故か?
ライバルとも思えないほどのレベルだからか?
「またお痛みすることがありましたら、直接私にご連絡下さい。すぐに参りますから。」
「本当にご迷惑おかけしました。ありがとうございました。」
「……本当に……。社長は素晴らしい方ですね。間違っておられない。」
「はい?」
「まぁ、私としたことが……お忘れ下さい。私などが社長を評価するような言葉を口にしてしまうなど、言語道断ですね。それでは、若奥様、お大事になさって下さいね。失礼しました。」
最後は焦ったように狼狽えて、多賀先生は出ていった。
本宮さんも、
「無事、痛みが治まったようで何よりです。では、私も秘書室に移りますので、何かございましたいつでもお声かけくださいませ。そちらの受話器を取り、3を押せば秘書室に繋がりますので。」
と、言って退室していった。
なんだか申し訳ないような、でも、えらく大切に扱われていて、ほんの少し居心地もいい。子供の頃から一度は夢見たことがある光景だからだろうか。自分が特別な厚い待遇を受けるということを。
ただ、実現したはいいが、終わりが見えているのは切ない。
☆☆
それから30分ほどして、夫が社長室に戻ってきた。
そうだ。
私はお世話係なのだ。
夫の姿を見て、現実に戻った。
「どうだ?体の具合は」
「おかげさまで、すっかり良くなりました。」
「そうか。多賀先生が来たと聞いたが。」
「はい。綺麗な方でした。」
「それならよかった。」
ん?
なんだその感想は。
「多賀先生は人気があるから、手すきじゃなかったら別の奴が来る恐れもあるからな。まぁ、本宮がミスしないとは思ってはいたが。」
「でしょうね。すごい腕だと思いました。美人だし、あんな綺麗な人に整体してもらえるなんて。女の私でもドキドキしたし。」
「は?何言ってる?お前、まさかそっちの趣味が……だとしたら、女医もダメってことか!?」
急に慌て始めた夫の意図することがわからず、そっちのと言われたことにあまりピンと来なかった私は、後々後悔することになる。
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