嘘つきは私かもしれない

koyumi

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第29話

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 真新しいキッチン、使われていないツール、だけど新鮮な食材が入っている冷蔵庫。

 1時間だけ休憩時間として自室で休めと言われてから連れてこられた場所は、ご存知『坊っちゃま夫婦の部屋』に備え付けてあるキッチンだった。

「お前はこれから俺の身の回りの世話係だ。食事、掃除、衣服の管理、あとは夜のマッサージでもしてもらおうか。」
「ちょ、ちょっと待ってっ!何言ってんのよ!何なのそれ?特に夜のマッサージとかっ」

 得意げな顔で機嫌がいいから、何を言い出すのかと思っていたら。
 夫のだなんて!!

「俺の世話はいつも従者達がやってくれているが、長い奴は休暇がもう10年ほどない。いい機会だからたまに休ませてもいいと思わないか?」

「10年?酷くない?休ませるべきよ!」

「だろ?で、一番長いのが調理場の人間だ。だから、奴らがいなくなると俺の飯たきはいないし、いつも本館に任せるのもなぁ。」

「確かに。ただでさえ、本館は来客が多いから、調理場はひっきりなしに料理してるもんね。」

「それにここは俺のテリトリーでこだわった割には使うことがない。使ってない部屋を掃除させるのは少々ブラック的な企業っぽくないか?」

「確かに。特にここの布団、いつもふかふかに仕上げているみたいだし、家電は最新式でいつもピカピカ。埃もかぶってないし、誰も使ってないのに汚れてると、かえって掃除は気を使うわね。」

「だろ?奴らはそれを文句ひとつ言わずやってのけている。素晴らしい忠誠心だと思うだろ?だから、奴らには褒美に特別休暇を言い渡すつもりだ。」

「ぅわぁ、素敵!絶対に喜ぶわよ。それ。どうして休暇があるかきちんと言ってあげてね。みんな嬉しがるわよ。」

「で、その間の俺にまつわる全てのことをお前に任せるというわけだ。」

 あ……そういうことね……。
 従者さん達の日頃の奮闘ぶりを思い出して、彼らに良いことがあるのなら嬉しいなって思って話を聞いていたけど、つまりは私が仕事をすることに結びつけたいわけね。

「だったら他の人を誰か」

「月100万でどうだ?」

「100?!身の回りの世話だけで?」

「ああ、でもそれだと借金額には程遠いな。150にしてもいいが……」

「やる!やらせていただきます!150で!!」

 一般企業で月150万なんて貰えるわけがない。まして、何の取り柄もない29歳の女が。
 それに、こんなに高額な給与を与えてくれるんだから、きっと早く私が借金を返し終えて、ここから去ることを望んでいるんだろう。
 藪坂さんと一緒になる為に。

「いつからですか?」

「だから、今すぐだ。」

「一応、契約書を書いておいてください!万が一のためです。」

「わかったよ。現金な奴だな。」

 こうして私は夫が作った簡単な契約書にサインをして、の世話係となったのである。
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