嘘つきは私かもしれない

koyumi

文字の大きさ
上 下
14 / 38

第14話

しおりを挟む
「ご馳走様でした。あぁ美味しかったー。」

 クロワッサンにスープ、スクランブルエッグ、厚切りベーコンにベビーリーフのサラダ、ゴールデンキウイにいちごやオレンジ、グリーンスムージーまで、全てがフレッシュで美味しかった。
 毎日こんな朝ご飯食べれるなら、喜んで早起きしようと思う。

「やっぱりお前は大食いだな。女の口がそんなに開くとは知らなかった。」

 だけど、こんな奴とは毎朝共に食事したくない。

「まあ、それはそれはお上品な見掛け倒しの女性しかご存知なかったなんて……随分と狭い世界で生きてこられたのですね。」

 鼻で笑っちゃう。
 ”世間知らずです”って公言しているだけじゃないか。

「見掛け倒し?見かけかどうにもならない人間の僻み語だな。」

「貴方との会話はつまらなさすぎて時間の無駄です。私はこれから講義がありますので、お先に失礼しますわっ。」

「っな!つまらんだと?」

 怒ってナプキンを投げ置いた夫に構わず、私は退席した。

 せっかくの美味しい食事が台無しだ。
 もう2度と一緒に食べたくない。会いたくない。

「若奥様、よろしいのでしょうか?」
「何が?万事オーケーだわ。彼奴さえいなければね。」
「彼奴とは……坊っちゃまのことですか?」
「それ以外誰がいるってのよ。」
「……ですよね……」

 ほらほら、毛利さんも同意見じゃない。
 私の感覚は間違っていない。


☆☆☆


 午前8時。

 私が今いるのはお庭の中にある東屋。
 ”講義”というからてっきり事務的な机と椅子がある場所でと思っていた。

「本日は初日ですので、リラックスしていただけるようにこちらでのお勉強となります。」

 そう言いながら、テキストらしき書類を持って恭しく頭を下げるのは毛利さんだ。

 彼女は今日もシュッとした顔立ちに髪型で、いかにもデキる女って感じだ。起床時間は何時なのか聞いてみたら、
「本日は午前4時」
と言っていた。早く目覚めた私より30分早い。
 ただ、毎日ではないらしい。
 週末は従者の方々もゆっくりできるらしく、大体5時半くらいに起きるとのこと。
「眠たくなったりしないんですか?」
と問えば、
「もちろん人間ですからそういったダラけ願望はあります。その時は15分程仮眠を取り、事故のないように致しております故、若奥様がご心配されることはございません。」
と返答された。
 確かにテレビとかで昼寝は15分まで!みたいな情報を聞いたことはあるが、実践しているとは。
「私もやってみます。だってもう既に眠たいですから。」
 東屋に吹く風が心地よくて、今にも眠ってしまいそうだ。さっきから欠伸を抑えるのに苦労する。

「それでは本題に入ります。まずはエンドーグループの沿革、事業内容、福利厚生、スローガンなどをがっちり覚えていただきます。基本ですので、お忘れにならないようにお願い致します。」
「はい……」

 ピクニック気分の時間は終わり。

 それから正午まで、みっちりと”エンドーグループ”について叩き込まれた。
 
 私、歴史得意だったはずだけど、な……。


 
☆☆☆☆

 
 午後からは14時から16時までの2時間、茶道を学ぶそうだ。
 昼食を終え、部屋でゆっくり休もうと2階へ上がる。

 すると、坊っちゃま夫婦の部屋の扉が少しだけ開いていて、中に誰かがいる気配がした。

(あ、掃除か何かか。)

と、特に気にせずに入ると、そこには夫の姿があった。

(ヤバっ)

 夫はリビングの窓に向いて電話をしており、こちらには気づいていない。

『……今夜?無理に決まっている……あぁ、うん…………少しだけなら……いや……あぁ………』

 何やらひそひそと密談のように話している。

 平日の昼間、こんなプライベートな場所で内緒話をする相手といえば、それは限定される。

 女だ。

 となると、今ここに私がいることは憚られるだろう。
 仮にも妻だ。
 夫の不貞の場面に出くわすなどよろしくない。

 そっと、そーっと、部屋を出ようとした。
 だがその時、

「あら、若奥様、部屋でお休みかと思いましたがこちらにいらしたのですね。」

 近重さんに見つかった。
 当然の事ながら、夫にも見つかった。
しおりを挟む

処理中です...