嘘つきは私かもしれない

koyumi

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第3話

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 すこぶる快晴の爽やかな朝、私は昨日届いた淡いピンクのツーピースを身に纏い、約3年間お世話になったワンルームの部屋を出た。

 ヒールに慣れていないわけじゃない。
 ただ、なんだか小っ恥ずかしいくらい品があるパンプス&バッグ、そして帽子に怖気付いてフラつく。
 いや、これから始まる見えない生活に緊張しているせいだろう。

 今日から先方の家で暮らすことになった。
 義両親、夫、数人の執事やメイドがいる屋敷に、私1人が乗り込む。まあ、うちの両親が付いてきたら何のこっちゃないけど、せめて弟くらい連れて行きたかったな……。

「はぁーーー」

 大きなため息をついてマンションを出ると、この街に似つかわしくない黒い高級車が止まっていた。
 言われなくてもわかる。

 乗ればいいんでしょ!
 私が乗ればっ!

 ガチャっと運転席から年配の男性が現れ、恭しく私に礼をしてから後部座席のドアを開けた。

 私も運転手さんにお辞儀をして、
「よろしくお願いします。」
と言い、乗り込んだ。

「ぅわっ!何これ!」

 外観も素晴らしいが、内装も豪華極まりない。

「若奥様、何かご不便でもございましたか?」

「若奥……?あ、私のことね。あ、アハハ、いえいえ、不便だなんてっ!」

「左様でございますか。何か途中でも至らない点がございましたらなんなくお声かけ下さい。」

「はい……」

 黒い革張りを想像したが、座席は白い革張りだった。
 もちろんフッカフカで、ここが車内だとは思えないリラックス感満載だ。
 ドリンクホルダーもキラキラしていて眩しい。何のボタンかな?と適当に押せば、フットレストが上がってきたり、背中をマッサージされたり、飽きない工夫が素晴らしい。

「若奥様、そろそろ着きますが、現在坊っちゃまはご不在でございます。旦那様と奥様も来客中でございますので、まず、執事の土方が屋敷をご案内させていただきます。ご無礼をお許しください。」

「ご無礼だなんて、そんな、大丈夫です!それに、私にそんな敬語はいいですから。年下ですし。」

「ふふ。いえいえ、滅相もございません。私など、若奥様から見れば目下も目下、の人間でございます。」

「そんな……」

「では、到着まで今しばらくお待ちください。」

「は…い……」

 気が重い。
 重すぎる。
 
 着かなきゃいいのに……!
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