悪竜の騎士とゴーレム姫【第12部まで公開】

雨宮ソウスケ

文字の大きさ
上 下
258 / 399
第8部

第七章 《煉獄》の鬼②

しおりを挟む
(……コウタさま)


 リーゼは祈るような想いで、《ディノス》を見つめていた。
 彼女の隣には、同じような表情をするアイリがいて、リーゼの手を握っていた。


(あれが、お義兄さまの機体、《朱天》ですか)


 真紅の角と白い鋼髪。
 まるで《煉獄》の鬼を思わせる漆黒の鎧機兵。
 コウタの《ディノ=バロウス》と並んでも、見劣りしない威圧感を持つ機体だ。


「……コウタ、勝てるかな?」


 アイリが、リーゼの手をギュッと掴んで呟く。
 あの敵が尋常ではないのは、素人のアイリでも分かるのだろう。


「……アイリ」


 リーゼは強くアイリの手を握り返した。
 しかし、気休めは言えない。


「……お義兄さまは《七星》最強です」


 わずかに視線を伏せる。


「対し、コウタさまの今の実力は、アルフレッドさまとほぼ同等。ミランシャさまの予測は、わたくしも正しいと思いました。恐らくコウタさまに勝ち目は……」


 ほぼ皆無。
 それは口にはしなかったが、アイリは眉をひそめた。


「ですが、安心してください。アイリ」


 リーゼは、優しく微笑む。


「この戦いは、《九妖星》を相手にする時とは違います。想いを伝えるための戦い。お怪我されないことは祈りますが、命を失うようなことだけは絶対にありません」

「……それは分かっているよ。けど、私は」


 アイリは、リーゼの顔を見上げた。


「……純粋にコウタに負けて欲しくない」


 リーゼはクスッと笑った。


「まあ、それはわたくしも同じですわね」


 愛する人の勝利を願わない女はいないということだ。
 アイリは、チラリと《ディノ=バロウス》に目をやった。


「……いつも思うけど、メルティアだけ相乗りの特権を持っているのはずるいと思う」

「……そうですわね」


 リーゼも《ディノ=バロウス》に目をやって頷く。


「そろそろ、あの特権は取り上げるべきですわね」

「……うん。私達も要求すべきだよ。けど」


 アイリは自分の真っ平らな胸を見た。それからリーゼの胸も見やる。
 アイリは「……むう」と呻いた。


「……リーゼなら、まだ押しつければ、おっぱいの感触は伝わるだろうけど、私にはまだ無理だよ。前から抱きつくってのは無理かな?」

「え? そ、それは……」


 リーゼは目を見開いた。
 そしてその直後に、ボッと赤くなる。
 思い出すのは、彼女の人生を決定することになった新徒祭。
 純白の鎧機兵と対峙した事件だ。


「シ、シートの位置や、操縦棍の高さを調整すれば可能ですが、そ、その……」


 体験談をつい語り始めてしまう。
 が、すぐにハッとし、リーゼは、口元を隠して視線を逸らしてしまった。
 耳や、うなじまで真っ赤だった。


「……リーゼ?」


 アイリが首を傾げる。


「……どうしたの? どうして顔が赤いの?」

「い、いえ! 何でもありませんわ!」


 それよりも、と続け、


「か、仮に、アイリが《悪竜ディノ=バロウス》モードが制御できるようになっても、コウタさまが戦場にアイリを連れて行くことはあり得ませんわ」

「……むう」


 無念そうに呻くアイリ。
 リーゼは、アイリの頭を撫でた。


「……けど、権利だけは欲しいところだよ」

「……そうですわね。後でメルティアに要求しますか」


 と、リーゼが頬に手を当て呟いた時。


「うわあ、何あれ……」


 呆然としたアリシアの声が届く。
 リーゼとアイリが、少し離れている彼女に視線を向けた。


「なんか、無茶苦茶おっかねえのが出てきたな、オイ」


 続けて、エドワードも呟きも聞こえてくる。
 どうやら、彼らは《ディノ=バロウス》を見て驚いているようだ。


(まあ、初めて《ディノス》を見れば当然の反応ですわね)


 リーゼは苦笑した。
 これは、きっと説明がいるだろう。
 リーゼは、アイリの手を引いて、アリシア達の方へと足を向けた。
 が、近付く前に、一度だけ足を止める。
 彼女は、視線を《ディノ=バロウス》に向けた。
 愛する人と、親しき友人が乗る鎧機兵は、今日も雄々しい姿だった。
 リーゼは、微かに瞳を細めた。


(……コウタさま)


 そして、彼女は祈る。


(どうかご武運を。そしてメルティア共に、怪我だけはなさらぬように)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

処理中です...