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第2部

第七章 対談②

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 窓から、朝日が差し込んでくる。
 スゥ、スゥ、スゥ、と。
 三人の少女たちは、一つのベッドの上でそれぞれの格好で眠っていた。
 すると、

「………ん?」

 ――むくり、と。
 その内の一人、御影刀歌は、おもむろに上半身を起こした。
 ふわあっと大きく背伸びをする。
 大きな胸がたゆんっと揺れ、裾の短いジャージからへそが顔を出した。
 ごしごしと目を擦る。

「……? ここは……?」

 刀歌は、視線を下ろした。
 そこには、同じくベッドの上で眠るエルナとかなたの姿があった。
 そこで、ようやく思考と記憶がはっきりとしてくる。

「そ、そうか。私は、私たちは……」

 まるで、猫のように丸まって眠るエルナとかなたの姿を見やりつつ、刀歌は頬を両手で押さえて赤く染めた。
 ここは、昨夜まで真刃が使っていた部屋だった。
 昨夜、この部屋の前で刀歌は、ただただ硬直するだけで何もできなかった。
 しばらくすると、部屋が静かになった。
 十数秒の硬直。すると、おもむろに真刃が部屋から出て来たのだ。

『……刀歌? どうしたのだ?』

 真刃の問いかけに、刀歌は口をパクパクとさせた。
 何かを言わねばならないと思っていたら、反射的に撃ち抜かれた脇腹を押さえていた。

『お、お腹、痛い……』

 子供か!
 自分でも思った。
 しかし、真刃は顔色を変えた。

『まさか傷口が開いたのか!』

 そう言って、彼女を抱き上げるではないか。

(あわ、あわわわッ!)

 彼女は真刃の腕の中でわたわたと手を動かすが、真刃は構わず刀歌を室内に連れ込んだ。
 パタン、とドアが閉まる音が聞こえて、刀歌は硬直する。
 部屋には、電気が付けられていなかった。
 それが特に必要ないぐらいに、月明かりが明るかったからだ。
 恐らく、元々が月明かりを楽しむようなコンセプトの部屋なのだろう。

(――ッ!)

 その部屋で、刀歌は息を呑んだ。
 椅子の上に座って眠るエルナ。
 さらには、ベッドの上に仰向けで横になるかなたを見つけたからだ。
 特に、かなたの方を、刀歌は、目が皿になるぐらいに凝視した。
 気を失っているらしきかなたは、荒い呼吸を繰り返していた。
 右手を腹部に、足は内股。服は少し着崩れていて、露出した肌は汗で輝き、火照っている。艶やかな唇には、彼女の黒髪が糸のようにかかっていた。

(か、かなた……)

 月明かりの中で眠る同い年の少女の姿には、どこか妖艶さがあった。
 衣服こそ着ているが、これは間違いなく夜戦の後である。
 よく見れば、エルナの方も同じように消耗した様子だ。衣服も少し乱れている。

(うわっ! うわっ!)

 刀歌は、再び口をパクパクとさせた。
 と、そうこうして内に、真刃にベッドの上に寝かされた。
 刀歌は胸元に両手を置いた状態で、石像のように硬直した。

『……刀歌。痛いところを言え』

 真刃が神妙な声でそう告げてくるが、刀歌の耳には届かない。
 エルナとかなたの呼吸音が聞こえてくる。
 ますます体が強張った。

 まずは、壱妃と弐妃をしっかりと愛して。
 次は自分の番――これからリテイクなのだと思って、グルグルと目を回していた。
 自分の中の『獣』まで、きゅうん、きゅうんっ、と委縮しているのが分かる。

 そして、

『刀歌? どうした刀歌!』

 ――きゅうっと。
 刀歌は、目を回しすぎて気を失ってしまった。
 剣しか振り回してこなかった純真少女のキャパを、完全にオーバーしてしまったのだ。
 そうして、そのまま朝を迎えてしまったのである。

「……………はう」

 刀歌は、両手をベッドについて落ち込んだ。
 まさかのリテイクまで記憶なし。
 しかも、今回は、うっすらとした記憶さえもない。
 いや、流石にあの状況では、リテイクはなかったのかもしれない。
 いずれにせよ、大失態である。流石に落ち込んでしまう。
 自分はただの隷者ではない。参妃なのだ。
 あの人を愛し、愛されて、いずれは子も宿して、慈しんで育む。
 その最初の第一歩が、この有様だ。
 刀歌は、ちらりと眠るエルナとかなたに目をやった。
 二人とも、幸せそうに微笑を浮かべている。
 壱妃殿と弐妃殿は、夜伽の役目を全うしたに違いない。

「………むむう」

 出遅れている参妃としては、唸るしかない。
 と、そこで気付く。

「……? 主君?」

 刀歌は眉を寄せた。
 室内に、主君の姿がない。
 この部屋は、本来主君が使っていたはずなのに。
 別の部屋にいるのだろうか?
 刀歌はベッドから降りた。
 そして、ぐっすり眠っているエルナたちを起こさないように部屋から出た。
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