上 下
8 / 8
第一話 転校生

7 これから、あるいはラーメン

しおりを挟む
 汗を拭くためのデオドラントシートが、幸いジョウの荷物の中にあった。全身をきれいに拭うと、メントールがすうすうと体を冷やす。寒いぐらいだ。ジョウは不気味なほど静かに紋様を解除し、着衣を正す。
 射精後の倦怠感で、中止を言い出すのも面倒だった二人は、律儀にラーメン屋に向かった。ロウヤはシャツの斬撃の痕跡を安全ピンで止めて隠す。近くのラーメン屋は丁度空いていた。
 赤いテーブルのラーメン屋で、水を飲みながらラーメンを待つ。ふと思い出してロウヤは唇を開いた。
「あー……そういや、お前んとこの狐は?」
「自宅に戻っているはずだ。依代はそこにある」
「そっか」
 ジョウがそっけなく返す。会話は続かなかった。

 醤油ラーメンがテーブルに運ばれると、ようやく会話が蘇る。ジョウはきょろきょろと周囲を伺いながら、割り箸を手に取る。一膳をロウヤに渡した。
「学生服のまま買い食いか……人に見られたら大事だな」
「俺に無理やり誘われたってことにしとけ」
「そうさせてもらう」
「大事でもないと思うけどな」
 真面目に学生生活を送っているジョウにとっては大事なのかもしれないが。ロウヤは箸を割り、手を合わせる。ジョウも自然な流れで、手を合わせていた。
「いただきます」
「いただきます」
 意外そうな顔をしたジョウが、ロウヤを見ていた。
 醤油ラーメンが旨い。黄色い細麺はもちもちしていて、強めの出汁が効いたスープにあう。ネギがいいアクセントになっていた。中でも半熟煮玉子だ。味が染みているのに中央の黄身はとろりとしていて、口の中で麺と合わさりコクのある旨味になる。ずぞずぞと勢いよく食べ終わり、ロウヤはジョウを見た。
 猫舌なのか、ジョウはゆっくりと麺を食べている。上品なすすり方だ。前髪がうっとうしいのか、頻繁に耳にかけている。ロウヤは頬杖をついて、食べ終わるまで眺め続けた。
 頬を赤くして水を飲む、ジョウにロウヤは声をかける。
「なんか言う事はねえの?」
「我々は利用関係だ。私から言うことはない」
「じゃ、俺からもないってことで」
「ああ」
 頷きあう。また水を飲んだ。財布から硬貨を取り出し、あとはお会計と声をかければいい。同時に店を出るのか、それも探り合って奇妙な間が生まれる。

 あ。とロウヤは短い声をあげた。聞き忘れたことがある。
「なあ。アッチのも、利用関係継続ってことでいいのか?」

 コップを掴んだままのジョウの目線が、冷たくロウヤを射抜いていた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

産卵おじさんと大食いおじさんのなんでもない日常

丸井まー(旧:まー)
BL
余剰な魔力を卵として毎朝産むおじさんと大食らいのおじさんの二人のなんでもない日常。 飄々とした魔導具技師✕厳つい警邏学校の教官。 ※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。全15話。

生意気な少年は男の遊び道具にされる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

おっさんにミューズはないだろ!~中年塗師は英国青年に純恋を捧ぐ~

天岸 あおい
BL
英国の若き青年×職人気質のおっさん塗師。 「カツミさん、アナタはワタシのミューズです!」 「おっさんにミューズはないだろ……っ!」 愛などいらぬ!が信条の中年塗師が英国青年と出会って仲を深めていくコメディBL。男前おっさん×伝統工芸×田舎ライフ物語。 第10回BL小説大賞エントリー作品。よろしくお願い致します!

一人の騎士に群がる飢えた(性的)エルフ達

ミクリ21
BL
エルフ達が一人の騎士に群がってえちえちする話。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

初体験

nano ひにゃ
BL
23才性体験ゼロの好一朗が、友人のすすめで年上で優しい男と付き合い始める。

処理中です...