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第一話 転校生
4 放課後、あるいは篭絡 ※モブ要素あり
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ロウヤは数日の間、異界に潜り調べ回った。昼間の学校でもそれとなく噂を集める。それをジョウは咎めなかった。咎めるどころか、ジョウの様子を伺っていることにも気が付かない様子で、忙しく学生生活を送っている。進展が少ないので協力を仰ぎたいが――そのチャンスもない。すげなくあしらわれるばかりだった。今日も何もできず、夕日が長い影を生み出していた。
どうしたもんかね、とロウヤは考えながら、薄っぺらいカバンを肩にかける。部活に勤しむ学生を余所に、一旦拠点へ戻ろうとしていた。
「そこの……悪童……っ」
小さい声が、ロウヤに届く。耳ではない。脳に直接響く、霊体ならではの声。高い声は、細く震えている。
「これは」
ロウヤは振り返り気配を探る。旧校舎の方角から、よろよろと小さな火の玉が浮かぶ。青白い火の玉は、力なくロウヤの足元に落ちた。火の玉は曖昧な狐のシルエットを浮かばせた。ゲッカはけほけほと咳き込み、ロウヤを見上げる。
「お前、ジョウんとこの……大丈夫か」
「力が吸われてしまう……! ジョウが危ない!」
「なんだって?」
霊力の源から引き離されたゲッカは、首を振って狼狽した様子を見せる。ロウヤは膝を折り、体に触れる。形を保てず、空気に溶けかけていくゲッカは悔しげに呻いた。
「騙されてしもうた……妾にも、悟らせず」
「旧校舎か?」
ロウヤの問いに、ゲッカは頷く。霊力そのものに変わり、旧校舎の何かへ吸収されていくゲッカ。
「地味な教師を乗っ取っておったとは……!」
――教師。
表情を無くしたロウヤは、立ち上がると駆け出した。
はぁ、はぁ、と浅い呼吸が繰り返されている。旧校舎の鏡の向こう側の異界で、ジョウは保健室のベッドに寝かされていた。衣服を中途半端に脱がされている。けれど、抵抗する気は起きない。
自分のことを覗き込む、地味な教師が、ケモノダマと一体化した凶暴な顔を見せていても――抵抗せず、人形のように白い顔を天井へ向けていた。うつろな目に、欲望に塗れた教師の顔が映る。
「そうだ……そのまま、何も考えなくていい」
教師はぼそぼそと囁いた。唾液をたっぷりと絡めた指先が、はだけたシャツの胸元を撫でる。生白い肌が、ピクリと震えた。
「あ……」
ベルトに手をかけられる。下着ごと太ももまで衣服を剥がれた。濡れた指先が萎えたままの陰茎を撫で、臍に手を置く。薄紫の光が臍上に集まり、奇妙な紋様を描いた。
「これで君は、僕のものだ……」
忠誠の紋様だ。精神と肉体を屈服させ、奴隷を作るための紋様。ジョウはその紋様に対する知識はあるが、深い催眠状態にある今は思考を巡らせることができない。教師の淫らな手つきが、太ももを割り開く。
「――何やってんだよ、ジョウ!」
異界の保健室の扉が蹴破られる。木片とガラスが散らばった。肩を跳ねさせたのは教師のみで、ジョウはただ歪んだ天井を見上げている。怒りに眉をつりあげたロウヤの姿も目に入っていない。
「なんだお前は!」
うろたえる教師の言葉に、ロウヤは答えない。ただ共に飛び込んできた狼、ソルに目配せをした。ソルから霊力が立ち上る。両手に手甲を実体化させた。鋭い牙のような爪がついた手甲を、ロウヤは容赦なく教師の頭に叩き込む。爪は掠っただけで、教師の肌から紫の靄が立ち上った。教師は人間離れした跳躍力で、古びた机の陰に飛び込む。上ずった悲鳴をあげた。
「……ッ、この肉体は一般人のものだぞ!」
「大丈夫だ。この武器は、おまえとくっついてるケモノダマだけぶっ壊す」
多少アザぐらい残るかもしれねえが、と言いながらロウヤはファイティングポーズをとった。ソルもまた唸り、微かに牙を覗かせる。
「遠慮はいらねえな?」
鋭い視線。ロウヤは、踏み込み突撃した。
――がきん、と拳が止められる。見覚えのある倭刀が、手甲を受け止めている。
「な……ッ」
「は、ははっ! 間に合った!」
教師を庇い、ロウヤを妨げていたのは、ジョウだった。
どうしたもんかね、とロウヤは考えながら、薄っぺらいカバンを肩にかける。部活に勤しむ学生を余所に、一旦拠点へ戻ろうとしていた。
「そこの……悪童……っ」
小さい声が、ロウヤに届く。耳ではない。脳に直接響く、霊体ならではの声。高い声は、細く震えている。
「これは」
ロウヤは振り返り気配を探る。旧校舎の方角から、よろよろと小さな火の玉が浮かぶ。青白い火の玉は、力なくロウヤの足元に落ちた。火の玉は曖昧な狐のシルエットを浮かばせた。ゲッカはけほけほと咳き込み、ロウヤを見上げる。
「お前、ジョウんとこの……大丈夫か」
「力が吸われてしまう……! ジョウが危ない!」
「なんだって?」
霊力の源から引き離されたゲッカは、首を振って狼狽した様子を見せる。ロウヤは膝を折り、体に触れる。形を保てず、空気に溶けかけていくゲッカは悔しげに呻いた。
「騙されてしもうた……妾にも、悟らせず」
「旧校舎か?」
ロウヤの問いに、ゲッカは頷く。霊力そのものに変わり、旧校舎の何かへ吸収されていくゲッカ。
「地味な教師を乗っ取っておったとは……!」
――教師。
表情を無くしたロウヤは、立ち上がると駆け出した。
はぁ、はぁ、と浅い呼吸が繰り返されている。旧校舎の鏡の向こう側の異界で、ジョウは保健室のベッドに寝かされていた。衣服を中途半端に脱がされている。けれど、抵抗する気は起きない。
自分のことを覗き込む、地味な教師が、ケモノダマと一体化した凶暴な顔を見せていても――抵抗せず、人形のように白い顔を天井へ向けていた。うつろな目に、欲望に塗れた教師の顔が映る。
「そうだ……そのまま、何も考えなくていい」
教師はぼそぼそと囁いた。唾液をたっぷりと絡めた指先が、はだけたシャツの胸元を撫でる。生白い肌が、ピクリと震えた。
「あ……」
ベルトに手をかけられる。下着ごと太ももまで衣服を剥がれた。濡れた指先が萎えたままの陰茎を撫で、臍に手を置く。薄紫の光が臍上に集まり、奇妙な紋様を描いた。
「これで君は、僕のものだ……」
忠誠の紋様だ。精神と肉体を屈服させ、奴隷を作るための紋様。ジョウはその紋様に対する知識はあるが、深い催眠状態にある今は思考を巡らせることができない。教師の淫らな手つきが、太ももを割り開く。
「――何やってんだよ、ジョウ!」
異界の保健室の扉が蹴破られる。木片とガラスが散らばった。肩を跳ねさせたのは教師のみで、ジョウはただ歪んだ天井を見上げている。怒りに眉をつりあげたロウヤの姿も目に入っていない。
「なんだお前は!」
うろたえる教師の言葉に、ロウヤは答えない。ただ共に飛び込んできた狼、ソルに目配せをした。ソルから霊力が立ち上る。両手に手甲を実体化させた。鋭い牙のような爪がついた手甲を、ロウヤは容赦なく教師の頭に叩き込む。爪は掠っただけで、教師の肌から紫の靄が立ち上った。教師は人間離れした跳躍力で、古びた机の陰に飛び込む。上ずった悲鳴をあげた。
「……ッ、この肉体は一般人のものだぞ!」
「大丈夫だ。この武器は、おまえとくっついてるケモノダマだけぶっ壊す」
多少アザぐらい残るかもしれねえが、と言いながらロウヤはファイティングポーズをとった。ソルもまた唸り、微かに牙を覗かせる。
「遠慮はいらねえな?」
鋭い視線。ロウヤは、踏み込み突撃した。
――がきん、と拳が止められる。見覚えのある倭刀が、手甲を受け止めている。
「な……ッ」
「は、ははっ! 間に合った!」
教師を庇い、ロウヤを妨げていたのは、ジョウだった。
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