ランデシア

野田C菜

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#3 無料と習慣

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世界征服をもくろむ魔物一族の第8部隊に所属する
女上司ランデシアと男部下のバギランガは
休日に、変装して魔界から人間界の牛丼チェーン店にやって来ていた。

変装と言ってもランデシアは元々ほぼ人間の容姿のため、
普段の派手な色のドレスをやめて
無難な色合いの地味めで控えめな服装にしただけだ。
バギランガは原型をとどめないくらい
見た目を人間に姿・形を変えている。
変装と言っているが変身の方が正しい表現かもしれない。
服はやはり無難に地味めでモノトーン調。

念のためできるだけ人目に触れないよう、時間帯は夜遅め。
他にお客さんはいない。

「やっぱ牛丼はカウンター席で食べたいわよねー♪」
ランデシアが席に着いてウキウキと機嫌良く言う。

人間界であまり目立たないよう
静かに相づちを打つバギランガ。

二人はU字のカウンター席の直線部分に並んで座っている。
店員がすばやくお冷を運んでくる。

タブレットのタッチパネルで食べたい物を選んで注文する二人。

その後、置いてある紅ショウガが
どれくらい入っているかをチェックするランデシア。

「そういえば、けっこう前だけど
飲食店の無料のやつにいたずらする動画とか拡散したわよねー。
人間てほんとバカよね。
せっかくタダで牛丼屋の紅ショウガとか
回転寿司のガリとか食べられるのに
悪いことするからタダじゃなくなったりすんの。
人間社会のことだから知らんけど」

ランデシアが長々としゃべっている間に
二人が注文した牛丼がU字の中を通った店員によって運ばれて来る。早い。

「でも我々もこうしてときどき食べに来ますから
紅ショウガは無料であって欲しいデスネ」
切なる願いで少し話すバギランガ。
割り箸を割って食べ始める二人。

「そうねー。まぁ、でも着色料とか人工甘味料とか
入ってたりするらしいから
タダだからってそこまで食べまくれるもんでもないけど。
でも結局置いてあると食べちゃうのよねー。
慣れって怖いわー」
常にバギランガの二倍以上話すおしゃべりなランデシア。
おいしそうにスタンダードな牛丼(並)を食べる。
紅ショウガもほどほどにのせて食べる。

それに対してバギランガは
静かに同意するだけだったが、
(「人間世界を征服しようとしてるのに
かなり人間の文化になじんでる自分たちの方が
ワタシは怖いデスヨ、ランデシア様)」
などと思っていた。

だが、バギランガは反論するとめんどくさい上司に対して
よけいなことは言わず、
彼もスタンダードな牛丼(並)をおいしそうに食べていた。

「トッピングに何かのってる牛丼も良いけど、
やっぱりシンプルなやつに帰りたくなるわよねー」

「デスネ」
優しい部下のバギランガがランデシアに静かに同意した。

おわり
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