28 / 45
6 はじめての喧嘩(バトル)
2
しおりを挟む
『絶対に、報われる日は来るから!』
芸能界は残酷な世界だ。入ろうとする者を弾き返し、なんとか厳しいオーディションを経て残ったとしても、人気がなければ生きていけない。そして去る者を追うこともしない。新人はいつだって入ってくるから。
飛天がアイドル事務所を辞めると言い出したときも、スタッフは誰一人止めなかった。一年のうちに何人もの卵たちが、孵らずに消えていく。飛天もまた、彼らにとっては同じだ。
唯一引き留めてくれたのが、敦だった。
『五人でデビューできなかったのに、できるわけないだろ!』
当時、すでに二十代半ばの敦にとって、そんなことはわかり切っていたのに。まだ若い飛天よりも、敦の方がチャンスの扉は小さく狭い。すでに硬く閉ざされてしまったかもしれない。
それでも敦は、努力を怠らなかった。歌もダンスも、常に最高に仕上げようとした。新しく入ってきた少年たちの面倒を率先してみていた。
善行を積めば、自分に返ってくるものだ。
そんな、徳の高い坊主が言いそうなことを、柔和な笑みを浮かべて、本気で信じている様子だった。
そしてその言葉通り、彼の身に降りかかってきた幸運。もしも敦の制止に従って、今でもアイドルを続けていたら、自分もその恩恵にあずかることができたのだろうか。
――いや、ダメだな。
飛天はすぐに結論づけた。
自分のためにしか頑張ることができない飛天の前を、チャンスの神様は横切らない。ただうらやましく思うだけの自分が、大成することはない。
映理の演技指導だって、結局は自分の自尊心を守るためだけに行っていたのだ。本当にいい作品を作り上げるためになんて、考えていなかった。
ヒロインは主人公とイコールではない。映理のその言葉の真意は、わからない。ただ、彼女は太陽が作りたい物を理解して、彼の意志に合わせようとしていた。
すべては自分が関わる作品を、よりよい物にしたいから。
思い返せば、アイドル時代もそれ以降の役者をしていた時期も、自分は本当に、作品全体に寄与するようなことをしていただろうか。
どうにか目立つ演技をして、デビューの糸口を掴みたかった。舞台上で印象を残して、いつかは大きなステージで主演を掴みたい。
そんな意識でばかりいた気がする。だから、誰も助けてくれなかったのだ。共演者も、関係のあった制作陣も、誰も飛天を庇ってはくれなかった。
映理との関係も、もう終わりだろう。飛天は諦めていた。彼女と会うことがないのなら、このバイトもおしまい。元のニート生活に戻るだけだ。
芸能界は残酷な世界だ。入ろうとする者を弾き返し、なんとか厳しいオーディションを経て残ったとしても、人気がなければ生きていけない。そして去る者を追うこともしない。新人はいつだって入ってくるから。
飛天がアイドル事務所を辞めると言い出したときも、スタッフは誰一人止めなかった。一年のうちに何人もの卵たちが、孵らずに消えていく。飛天もまた、彼らにとっては同じだ。
唯一引き留めてくれたのが、敦だった。
『五人でデビューできなかったのに、できるわけないだろ!』
当時、すでに二十代半ばの敦にとって、そんなことはわかり切っていたのに。まだ若い飛天よりも、敦の方がチャンスの扉は小さく狭い。すでに硬く閉ざされてしまったかもしれない。
それでも敦は、努力を怠らなかった。歌もダンスも、常に最高に仕上げようとした。新しく入ってきた少年たちの面倒を率先してみていた。
善行を積めば、自分に返ってくるものだ。
そんな、徳の高い坊主が言いそうなことを、柔和な笑みを浮かべて、本気で信じている様子だった。
そしてその言葉通り、彼の身に降りかかってきた幸運。もしも敦の制止に従って、今でもアイドルを続けていたら、自分もその恩恵にあずかることができたのだろうか。
――いや、ダメだな。
飛天はすぐに結論づけた。
自分のためにしか頑張ることができない飛天の前を、チャンスの神様は横切らない。ただうらやましく思うだけの自分が、大成することはない。
映理の演技指導だって、結局は自分の自尊心を守るためだけに行っていたのだ。本当にいい作品を作り上げるためになんて、考えていなかった。
ヒロインは主人公とイコールではない。映理のその言葉の真意は、わからない。ただ、彼女は太陽が作りたい物を理解して、彼の意志に合わせようとしていた。
すべては自分が関わる作品を、よりよい物にしたいから。
思い返せば、アイドル時代もそれ以降の役者をしていた時期も、自分は本当に、作品全体に寄与するようなことをしていただろうか。
どうにか目立つ演技をして、デビューの糸口を掴みたかった。舞台上で印象を残して、いつかは大きなステージで主演を掴みたい。
そんな意識でばかりいた気がする。だから、誰も助けてくれなかったのだ。共演者も、関係のあった制作陣も、誰も飛天を庇ってはくれなかった。
映理との関係も、もう終わりだろう。飛天は諦めていた。彼女と会うことがないのなら、このバイトもおしまい。元のニート生活に戻るだけだ。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
夫を愛することはやめました。
杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
九龍城砦奇譚
菰野るり
ライト文芸
舞台は返還前の香港九龍城。
極彩色の洗濯物なびかせながら
飛行機が啓徳空港へ降りてゆく。
何でも屋のジョニーに育てられたアンディは10才。国籍も名字もない。
少年と少女の出逢いと青春を
西洋と東洋の入り混じる香港を舞台に
雑多な異国の風俗や景色
時代の波と絡めながら描く
人狼戦記~少女格闘伝説外伝~
坂崎文明
ライト文芸
エンジェル・プロレス所属の女子プロレスラー神沢勇(かみさわゆう)の付き人、新人プロレスラーの風森怜(かざもりれい)は、新宿でのバイト帰りに、人狼と遭遇する。
神沢勇の双子の姉、公安警察の神沢優(かみさわゆう)と、秋月流柔術宗家の秋月玲奈(あきずきれな)の活躍により、辛くも命を助けられるが、その時から、ダメレスラーと言われていた、彼女の本当の戦いがはじまった。
こちらの完結済み作品の外伝になります。
少女格闘伝説 作者:坂崎文明
https://ncode.syosetu.com/n4003bx/
アルファポリス版
https://www.alphapolis.co.jp/novel/771049446/998191115
好青年で社内1のイケメン夫と子供を作って幸せな私だったが・・・浮気をしていると電話がかかってきて
白崎アイド
大衆娯楽
社内で1番のイケメン夫の心をつかみ、晴れて結婚した私。
そんな夫が浮気しているとの電話がかかってきた。
浮気相手の女性の名前を聞いた私は、失意のどん底に落とされる。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる