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4 さあ、ショータイムだ……!?
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デビュー日の天気予報は、晴れ。気温も高くなるようで、スーツを着てアクションをするのは大変そうだが、雨で中止になったり、やれても客がほとんどいなかったりするよりは、全然マシだ。
指折り数えてその日を待ち望んでいた飛天だったが、当日、用意された衣装を見て、膝から崩れ落ちた。
してやったり、とゲラゲラ笑っているのは高岩で、彼はちゃっかりというか、当然、今日の主役である仮面ライダーのスーツが準備されている。
「新人は、まずはそっからって決まってんだよ。残念だったな」
ということは、皆知っていて、黙っていたのだ。今日も今日とて、音響係として帯同している次郎を睨みつける。両手を合わせて謝罪されても、絶対に許さない。
飛天の前にスタンバイされていたのは、ピンクのウサギだった。無論、そんなヒーローはいない。悪役にしては可愛すぎる。うさちゃんを完膚なきまでに叩きのめす仮面ライダーには、子供たちがギャン泣きするだろう。
「今日のお前の仕事は、可愛いうさちゃんになって、風船をお子様たちに届けることだ!」
いろんなキャラクターの絵がついたアルミ風船は、まだ萎んでいる状態だった。まさかとは思ったが、どうやらこちらの準備も、飛天が行うらしい。
どうりで、出演者に選ばれたにもかかわらず、練習はいつもどおり基礎オンリーだったわけだ。ショーの台本すら渡されず、てっきり自由度の高い撮影会の間違いだったのかと思っていた。確認を怠った自分も悪い。
くそ、と悪態をつきながら、飛天はひとりで風船準備を始めた。次郎に手伝わせようと思ったのだが、あいにくリハーサルに行ってしまった。
ガスを入れては封をして、その繰り返しである。飛天は作業に没頭して、最も大切なことを失念していた。
「あ」
そのことに気がついたのは、着ぐるみとして子供たちの前に登場してからだった。思わず声を出してしまった。ピンクのうさちゃんから漏れる成人男性の声は、子供に聞かれたらまずい。下手をすると親からクレームが来る。
幸い、飛天の呟きは拾われなかった。タイミングよく、近くの赤ん坊が泣きだした声にかき消された。
飛天は表情の変わらない着ぐるみながらも、愛想よく風船を配っていく。写真撮影を求められれば、気軽に応じてやり、子供たちとハイタッチをする。
だが、内心は「やべぇ……」と、焦りまくっていた。
朝、家を出るまでは完全に浮かれていた。久しぶりに、映理に会うことができる。終わったら、どこかでお茶くらい行こう。そうメッセージを送ると、彼女も「楽しみです」と返信してきた。
意気揚々とデビューを語っていたのに、実際は着ぐるみの中にいるなんて。こんな姿、映理に見られたら格好悪い。
しかし、一度着ぐるみを纏ってしまえば、誰かに手伝ってもらわないと脱げない。十一時スタートのショー終了後に、休憩をもらえることになっているが、それまではこのままだ。
スマホなんて、持てるはずがない。まして、メッセージを打つなんて不可能だ。
狭い視界では見えないが、もしかしたらすでに映理は来場しているかもしれない。親子連れの邪魔にならないように、後方に立って、カメラの調整をしているかもしれない。
詰んだ。
「うさぎさんだぁ」
飛天はなるべくショー会場の方を見ないようにして、女の子の相手に集中する。ヒーローショーに興味のないお子様の相手が、本日の飛天の任務である。
風船を持っていない方の手を口元にやって、可愛いポーズを作ると、狙い通り「かぁわいい!」と舌足らずに褒めてくれた。
風船を手渡して、ついでに頭をぽふぽふと撫でると、満面の笑顔で少女は去って行った。
可愛いうさぎさんの中にいるのが、男だということをあの子は知らない。
大丈夫かもしれないな、と、少しだけ気持ちが上向きになった。
ヒーロースーツを着た飛天を見たのは、一度きりだ。あのときは自分だけだったが、今日のショーは仮面ライダーを演じる高岩以外にも、悪役が何人もいる。下っ端構成員のひとりだったと言えば、ごまかせるのではないだろうか。
それに、彼女はショーを見に来たのだ。少なくとも、会場の端で風船を配り歩くうさぎには、目もくれないだろう。
こんな着ぐるみを着ているのが自分だとは、まさかわからないはず!
……そう思っていた飛天だが、現実は違った。
指折り数えてその日を待ち望んでいた飛天だったが、当日、用意された衣装を見て、膝から崩れ落ちた。
してやったり、とゲラゲラ笑っているのは高岩で、彼はちゃっかりというか、当然、今日の主役である仮面ライダーのスーツが準備されている。
「新人は、まずはそっからって決まってんだよ。残念だったな」
ということは、皆知っていて、黙っていたのだ。今日も今日とて、音響係として帯同している次郎を睨みつける。両手を合わせて謝罪されても、絶対に許さない。
飛天の前にスタンバイされていたのは、ピンクのウサギだった。無論、そんなヒーローはいない。悪役にしては可愛すぎる。うさちゃんを完膚なきまでに叩きのめす仮面ライダーには、子供たちがギャン泣きするだろう。
「今日のお前の仕事は、可愛いうさちゃんになって、風船をお子様たちに届けることだ!」
いろんなキャラクターの絵がついたアルミ風船は、まだ萎んでいる状態だった。まさかとは思ったが、どうやらこちらの準備も、飛天が行うらしい。
どうりで、出演者に選ばれたにもかかわらず、練習はいつもどおり基礎オンリーだったわけだ。ショーの台本すら渡されず、てっきり自由度の高い撮影会の間違いだったのかと思っていた。確認を怠った自分も悪い。
くそ、と悪態をつきながら、飛天はひとりで風船準備を始めた。次郎に手伝わせようと思ったのだが、あいにくリハーサルに行ってしまった。
ガスを入れては封をして、その繰り返しである。飛天は作業に没頭して、最も大切なことを失念していた。
「あ」
そのことに気がついたのは、着ぐるみとして子供たちの前に登場してからだった。思わず声を出してしまった。ピンクのうさちゃんから漏れる成人男性の声は、子供に聞かれたらまずい。下手をすると親からクレームが来る。
幸い、飛天の呟きは拾われなかった。タイミングよく、近くの赤ん坊が泣きだした声にかき消された。
飛天は表情の変わらない着ぐるみながらも、愛想よく風船を配っていく。写真撮影を求められれば、気軽に応じてやり、子供たちとハイタッチをする。
だが、内心は「やべぇ……」と、焦りまくっていた。
朝、家を出るまでは完全に浮かれていた。久しぶりに、映理に会うことができる。終わったら、どこかでお茶くらい行こう。そうメッセージを送ると、彼女も「楽しみです」と返信してきた。
意気揚々とデビューを語っていたのに、実際は着ぐるみの中にいるなんて。こんな姿、映理に見られたら格好悪い。
しかし、一度着ぐるみを纏ってしまえば、誰かに手伝ってもらわないと脱げない。十一時スタートのショー終了後に、休憩をもらえることになっているが、それまではこのままだ。
スマホなんて、持てるはずがない。まして、メッセージを打つなんて不可能だ。
狭い視界では見えないが、もしかしたらすでに映理は来場しているかもしれない。親子連れの邪魔にならないように、後方に立って、カメラの調整をしているかもしれない。
詰んだ。
「うさぎさんだぁ」
飛天はなるべくショー会場の方を見ないようにして、女の子の相手に集中する。ヒーローショーに興味のないお子様の相手が、本日の飛天の任務である。
風船を持っていない方の手を口元にやって、可愛いポーズを作ると、狙い通り「かぁわいい!」と舌足らずに褒めてくれた。
風船を手渡して、ついでに頭をぽふぽふと撫でると、満面の笑顔で少女は去って行った。
可愛いうさぎさんの中にいるのが、男だということをあの子は知らない。
大丈夫かもしれないな、と、少しだけ気持ちが上向きになった。
ヒーロースーツを着た飛天を見たのは、一度きりだ。あのときは自分だけだったが、今日のショーは仮面ライダーを演じる高岩以外にも、悪役が何人もいる。下っ端構成員のひとりだったと言えば、ごまかせるのではないだろうか。
それに、彼女はショーを見に来たのだ。少なくとも、会場の端で風船を配り歩くうさぎには、目もくれないだろう。
こんな着ぐるみを着ているのが自分だとは、まさかわからないはず!
……そう思っていた飛天だが、現実は違った。
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