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第38話 魔法幼女
しおりを挟むピンクの髪に、ピンクの衣装を着た小さな女の子は魔法のステッキを持ってワカメ怪人と対峙する。
衣装もステッキも、魔法少女のものをその子のサイズに合わせたっという感じだ。
まぁ全部そのまま……というわけではなく、髪型はツインテールだけど。
あ、あとステッキを持ってる反対側の手に、わたあめのキャラクター袋も持っている。
多分、日曜の朝に放送してる女の子向けのアニメのだ。
自らを魔法幼女と名乗ったこの小さな女の子。
顔も可愛らしいし、なんとなく守夜美月に似ている感じもする。
だけど、どこからどう見ても、その名の通り幼女だ。
小学生……いや、もしかしたら、幼稚園児かもしれない。
「何が魔法幼女だ!! チビは引っ込んでな!! あひゃひゃひゃひゃ!!」
「チビだなんて、失礼ね!! レディーに向かって!!」
いや、レディーって……
「お前みたいなチビに何ができるっていうんだ? あひゃひゃひゃひゃ!!」
ワカメ怪人は気持ち悪い笑い方で、魔法幼女にウネウネとヌルヌルしたワカメを伸ばす。
魔法幼女はそれを華麗にヒョイっとかわすと、ぴょんと跳ねて、その伸ばされたワカメの上に立った。
「あひゃっ!?」
ワカメの先が地面に食い込んでいて、抜けないようだ。
焦るワカメ怪人のワカメの上で、魔法幼女は魔法のステッキを高く上に振り上げる。
小さいのに中々やるじゃないか、魔法幼女。
「見せてあげるわ!! この魔法幼女の力を!! キラッとビーーーー……きゃっ!!」
魔法幼女はキラッとビームと言い切る前に、バランスを崩して転んでしまった。
ワカメがヌルヌルしすぎていて、滑ったんだろう。
俺は床に激突しそうになってる魔法幼女をギリギリのところでキャッチした。
「おい、大丈夫か!」
「びっくりしたわ…………って、あなた、誰?」
「え……えーと……」
いや、君の方こそ誰なんだ。
本当に、魔法幼女なのか?
実はただのコスプレだったりしない?
「俺の名前なんて、今はどうでもいい。それより、魔法幼女…………魔法少女はどうした?」
「し……知らないわ。私は今ここに来たばかりだから……」
いや、めっちゃわたあめの袋持ってるけど……魔法のステッキは落としたのに。
なんなら、近くで見て気づいたけど、口の周りに砂糖もついてる……
明らかに何か知っていそうな魔法幼女。
もう少し問い詰めたかったが、ワカメ怪人の次の攻撃が俺たちを襲う。
「あひゃひゃひゃひゃ!! バカなガキだ!! この程度で、このオレに勝とうなんて100年早いぜ!! あひゃひゃひゃひゃ!!」
なんとかギリギリのところでかわしたが、別のワカメが俺の足首に巻きついて離れない。
「なんだこのワカメは!! くそっ!!」
魔法幼女を抱えたまま逃げようとしたが、ズルズルと引っ張られて地面に倒されてしまう。
仕方がなく俺は魔法幼女を手放すと、落ちていた魔法のステッキを掴んで、魔法幼女にパスした。
「魔法幼女、早くこれでなんとかするんだ!!」
「わ、わかったわ! 狐さん!!」
狐さん……?
あ、そうだ、俺今、ファン様じゃなくて、狐だった。
狐のお面に祭りの法被。
いつものあの仮面舞踏会的な洋風じゃなくて、思いっきり和風だけども、魔法幼女をしっかりサポートしなければ。
だって、俺は怪人族の息子ではあるけど、こんなやり方で、人間を奴隷にしようとする紅家のやり方は間違っていると思うんだ。
魔法少女が来ないなら、魔法幼女でもいい。
とにかく止めなければ!
「今度こそ!! キラッとビーーーーーーム!!!」
「そんなもの、オレには効かな……あああああああああああああ!!!」
魔法幼女の放った魔法で、ワカメ怪人は消えた。
俺の足首を引っ張っていたワカメも、お姉さんの体に巻きついていたワカメも消える。
そして、急に巻きついていたワカメが消えたことで、捕まっていたお姉さんが、地面を引きずられていた俺の上に覆いかぶさるように倒れて来た。
「わっ!! 危ないっ!!」
反射的に止めようと両手を伸ばすと、手のひらに柔らかな感触が。
むにゅっと。
「ファン様!!!?」
その瞬間、魔法少女の声がした。
声が聞こえた方をみると、魔法少女の姿ではない、浴衣姿のままの守夜美月がこちらを見ている。
どうなってる!?
って、いや待て!!
「や……これは…………その、誤解だ!!」
この状況、やばくない!?
俺、お姉さんの胸を思いっきり揉んでることになってない!?
「あれ? 狐のお面? 別の方ですね……」
あ……
そうだった。
俺は今、狐だった————
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