魔法少女に恋をして

星来香文子

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第36話 デートってすごい

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 か……かわいい……!!!!!!!!

 なんだこれは!!
 なんだこれは!!

 この世のものとは思えないほど、ゆっくりとこちらに向かって歩いて来る守夜美月の姿は、あまりにも可愛かった。

 人よりちょっと視力のいい俺には、彼女が俺に気がつく前から、ゆっくりと歩いて来る姿が見えている。
 白地に水彩っぽいピンクと紫の花柄の浴衣。
 浴衣に合わせて髪につけているピンクの花の飾りも。
 きっと少し化粧をしてるんだろう、いつも何もしなくても可愛いけど、さらに可愛さが増している。
 歩き慣れないみたいで、なんども下を見ながらヒョコヒョコ歩いている危なっかしさも最高に可愛い。

 まだ明るい内に、この姿を拝めてよかった。
 本当に良かった。

「あ、ファンさ————メースケくん!」

 彼女が俺に気がついて、手を振ると袖も一緒に揺れる。

 あぁ、なんて幸せな瞬間だろう。
 公園で待ち合わせをしただけで、この破壊力だ。
 デートってすごい。
 ずっとずっと、好きで好きでたまらなかった守夜美月とデートだなんて……
 花火大会だなんて!!!

「あ……守夜さん!」

 俺が手を振り返すと、嬉しそうに、だけどちょっと恥ずかしそうに彼女は少し急ぎ足になる。

 あぁ、そんなに急がなくてもいいよ。
 転んだら危ない。

「きゃっ!!」
「あ!!」

 案の定、彼女はすぐ目の前まであと数歩というところで、何かにつまずいて転びそうになった。
 俺は反射的に正面から守夜美月を抱きとめる。
 俺の体にすっぽりと収まる小さな体。

 信じられるか?
 こんなことが、俺の人生に起こるなんて……

「大丈夫? 守夜さん」
「だ、大丈夫です。それより————」

 彼女は俺の胸に耳をつけたまま言った。

「ちゃんと名前で、呼んでください。守夜さんじゃなくて……。私たち、その……お付き合いしているのですから……」
「う……うん」

 お付き合い!!!?
 お付き合いしてる!!?
 うおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!

「み、美月……さん」
「はい!」
「そ、そろそろ行こうか……」
「はい!」

 うわああああああああああ!!!
 やっばい!!
 やっばいいいいいいいい!!!!

 めちゃくちゃ興奮してるのがバレないように、俺は冷静な……なんでもないようなフリをしながら彼女の手をそっと握って、花火大会の会場へ向かった。
 もしかしたら、ものすごく手汗をかいていたかもしれない。
 何度も緩みそうになる口元も、バレていたかもしれない。

 それでも、俺の隣に、守夜美月がいることが本当に嬉しかった。

「呼び捨てでも、いいんですよ?」

 何それ!!!!
 マジで!!?

「そ……そう? じゃぁ……そうするよ」

 なんとか心を落ち着かせようとしてるのに、守夜美月が可愛すぎる。
 くそ……わざとなのか!?
 もしかして、わざとなのか!?

「あのさ、今日も」

 だったら、俺もお返ししてやろう。

「可愛いよ……美月」
「…………」

 あ、あれ?

 彼女はピタリと動きを止めて、何も言わなくなった。
 もしかして、何か気に障っただろうかと彼女の顔を見たら、耳まで顔を真っ赤にしていた。

「……メースケくんも、かっこいいです」
「……あ、ありがとう」

 何これ……!!!
 恥ずかしい!!!
 めっちゃ恥ずかしい!!

 顔が熱い。
 やばい。


 * * *

 花火大会の会場に近づくにつれて、人が多くなっていく。
 近くの神社の前に屋台も出ているから、人が多く集まっているようだ。
 焼きそばやたこ焼きの美味しそうな匂いが漂っている。
 太陽はもう沈み始めて、オレンジの空の下でも守夜美月は可愛かった。


「何か買う?」
「そうですね……お腹も空きましたし」

 何がいいかとあたりを見回してみると、フルーツ飴の屋台の端で苺飴に食いついている青い何かが俺の視界に入った。

 あれ?
 あれって……

「ブルータス?」
「えっ? ブルータスがどうかしました……?」

 あ、そうか……守夜美月には見えていないのか。
 俺の視力だから見えただけで……

「いや、そのーかき氷はブルーハワイが好きだなー……って思って」

 見えていないなら、見えないことにしよう。
 今日くらい、こんな時くらい、全部忘れてデートを満喫したい。

「ブルーハワイですか? 美味しいですよね!! 私もブルーハワイ好きです。下が真っ青になっちゃいますけど……」
「はは、そうだね。赤なら目立たないけど、青と緑は結構グロデスク————」

 今度は、射的の景品の中に、緑色の揺れる何かが見えた。
 ん?
 あれ?

 あの射的のおっさん、背中からワカメが出てないか??

 ん?
 もしかして、怪人————いやいや、そんなわけない。
 こんな人が大勢いるなかに、怪人がそんな……ね。

「フランクッフルトとか美味しそうですね!」
「う、うん。そうだね……ここ並ぼうか」

 なんか色々見てしまったような気がしつつ、注文の列に並びながら俺はもう、見ないようにした。
 余計なものは見たくない。
 そう、だって俺はこれから守夜美月と楽しく。
 仲良く、花火を見るんだから。
 そして、花火が上がったその時、もう一度彼女とキスを……なんてね!!


「きゃあああああっ!!!! 誰か助けてえええええ!!!」


 そんな妄想をしていたら、甲高い女性の悲鳴が聞こえてきた。

「あひゃひゃひゃひゃ!! 大人しくしろ人間!! お前はこれから怪人族の奴隷になるのだ!! あひゃひゃひゃひゃ!!」
「いやあああああ!!!」

 くそ!!!!!!!
 なんでだよおおおお!!!!
 出てくるなよおおおおおおお!!!!

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