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第34話 ああ、夏休み 前編
しおりを挟む紅会長の家に来て、数日経った頃だった。
扇からの情報によると、何度か魔法少女の怪人退治を手伝ったそうだ。
紅会長が夜中に家にいないことが何度かあったので、おそらくその時だろう。
俺とは違って、扇はナイトの力なるものを持っているのだから、安心して頼んでいたけど、俺は一体いつになったらこの家から出られるのか……
「はぁ……もう、夏休みも残り半分じゃないか……」
「なんだ、欲求不満か?」
「うるせー……だまれ、変態金魚」
深いため息をつきながら、特にやることもないのでひたすらスマホをいじったり、ゲームしたりして過ごしていた。
この変態金魚が紅会長のお尻について力説するのがうざかったが、話し相手は金魚くらいしかいない。
あぁ、なんて悲しい夏休みだ……!!
せっかく、守夜美月と両思いになれたっていうのに……
ほんとうに、どうして俺はあの時、彼女に連絡先を聞かなかったのか……
じいちゃんが俺に持たせた酢昆布のおかげで、あの日以来背中からタコ足は生えていない。
魔法少女を助けるファン様も、今は扇が勤めているからそろそろ青野家の疑いが晴れてもいいと思うんだけどな……
————ピコンッ
「ん?」
嘆いていたら、突然スマホの通知音が鳴った。
扇からの画像が届いた。
「んん???」
そこに写っていたのは、ファン様の格好をした俺と守夜美月のツーショット。
二人でピースしてる。
……なんだこれ?
こんなの、撮った覚えないけど、どこからどう見ても、俺だ。
仮面とマントをつけてはいても、自分の姿を間違えるはずがない。
————ピコンッ
首を傾げていると、もう一度通知音が鳴った。
今度は、メッセージ。
『お前さ、魔法少女の正体が守夜美月だってもっと早く教えてくれよ!』
あ、そうか、近くで見たからようやくわかったんだな。
『しかも、いつの間にかお前ら付き合ってるなんて! 親友の俺には報告するもんだろう? お前がどうしてファン様やってたのか、やっと理由がわかったぜ』
うん、そうなんだよ扇。
守夜美月が魔法少女だとわかっていたから、俺は仮面をつけて、ファン様になったんだ。
「悪かったな……隠していて……」
そうメッセージを打ち込んでいたら、送信する前に次のメッセージが届く。
『それと守夜美月って、見かけに寄らず結構大胆なんだな!』
ん?
『さすがに手を握られた時は驚いたけど、付き合ってるなら当然だもんな!! バレないようにちゃんとしておいてやったから、安心しろよ』
手?
握られた?
守夜美月に?
なんで?
なんで?
どういうことか理解できない。
なんで、扇の手を握るんだ???
* * *
「帰っていいわよ」
その次の日だった。
突然俺の人質生活が終わったのは。
なんでも、魔法少女を助けていた男が青野家の怪人ではなく人間であると判断されたからだ。
それも、ナイトの力を持つ男だと報告があったらしい。
紅会長はそれなら仕方がないと、俺が帰る時に一緒に車に乗って俺の家まで来た。
そして、鼻の下を伸ばした父さんと玄関で体をどうするだの……思いっきり不貞行為について話していたので、俺は母さんに告げ口。
普段は温厚でのんびりしている母さんがブチギレて、口がガッと開いたと思うと、深海魚みたいに歯がギザギザになった。
見てはいけないものを、見てしまった俺。
「あなた……何を考えているの!!!」
「痛い痛い痛い!!! やめろ!! かあさん!! 浮気なんてしないから!! もう二度としないからぁぁぁ!!!」
母さんに思いっきり噛まれている父さんの姿をみて、二度と母さんを怒らせないようにしなきゃと思った。
めっちゃ怖かった。
そんな玄関での惨劇を、なるべく見ない、聞かないようにして、俺は着替えるとすぐに守夜美月に会いに行こうと家を出た。
もちろん、玄関からは怖すぎて出られないから、2階のリビングの窓からだ。
店の看板をつたって。
今日がお盆の定休日で本当に良かった。
昼間からこんなことをしていたら、店番している従業員に目撃されている。
って、いるも働いてくれている従業員たちも、もしかして怪人族だったりするんだろうか?
そんなことを考えながら、守夜美月の家に向かって走る。
彼女の家は途中から通学路が同じなだけあって、わりと家から近い位置にいある。
噴水公園の中を突っ切って、突き当たりの自動販売機の角を曲がればすぐだ。
やっと会える!!
やっと、やっと守夜美月に会える!!!!
嬉しくて嬉しくて、夏の暑さなんてどうでもよく走っていると、公園の噴水近くで水遊びをしている小さな女の子にぶつかりそうになった。
「おっと、ごめん!!」
「うわあああああんん!!!」
ぶつかってはいないが、その女の子は俺の顔を見て泣き出してしまう。
「えっ……ちょっ……」
ものすごい大声で泣かれて、公園にいた他の親子から白い目で見られた。
焦って泣きやませようとしたが、全然泣きやまない……
もう、どうしたらいいんだ!!
「どうしたの、ユズちゃん!!」
この子の保護者だろうか、麦わら帽子をかぶった白いワンピースを来た小柄な女性が走って来て子供の名前を呼んだ。
「わあああああん!! ミヅキおねえちゃあああん!!」
ミヅキお姉ちゃん?
「もう大丈夫よ。何があったの? ……って……ファン様?」
女の子の保護者は、会いたくて会いたくて仕方がなかった、守夜美月だった。
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