魔法少女に恋をして

星来香文子

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第32話 キケンな同居人 前編

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「まさか、あなたが青野家の息子だったなんて……」
「俺だって、まさかですよ……」

 さすがに人質としてやってきた息子が俺だったことは、紅会長も驚いたようだ。
 俺だって、まさかこんなことになるとは思わなかったよ。

 人質だとか言うから、どんなひどい扱いを受けるのかとビクビクしていたら、紅家から俺を引き取りに来た黒服の男たちが用意した車は乗り心地抜群の高級車。
 怪人族の女王の家だというから、一体どんな気持ちの悪い怪人が現れるのかと思えば、ドラマとかでよくみる嘘みたいな大きな門構えに広い庭園がある白い壁の高級住宅には、怪人らしきものは一人もいなかった。
 リビングの壁一面が水族館のような水槽になっているくらいで、魚っぽいものはそれ以外何もない。

 こんな広い家だと言うのに、紅会長には家族はいなくて、周りにいる黒服の男たちはみんな執事なんだそうだ。
 あとは年配のお手伝いさんが二人いた。

「あなたのお父様にはお話ししたから、聞いているとは思うけれど……魔法少女を助けたのが青野家の人間じゃないと判断するまで、あなたにはこの家にいてもらうわ。部屋はそこを適当に使いなさい。あぁ、でも、いくら私が魅力的でも、私の部屋に入って来たら殺すわよ?」
「入りませんよ!!!」

 紅会長は、もうほとんど裸に近いんじゃないかっていうくらいの薄いワンピースで脚を組みながら椅子に座ってそう言った。
 なんでこの人は、そう言いながらこんなに男を誘惑するような格好でいるのか……
 まぁ、俺からしたら全くもってタイプじゃないから、どうとも思わないのだけど……

「あら? そう? こんなに魅力的な私という存在を目の前にして、そんな態度を取るのはあなたくらいよ?」
「……一体どっちなんですか。俺に何かされたいんですか? されたくないんですか?」
「あら……やっぱり私に何かしたいのね? イヤらしい……男ってみんなそう」
「だから、しませんってば!!」

 どういう思考回路してるんだか、さっぱりわからん!!

「まぁいいわ。それより、あなたあの合宿は退部ってことでいいのかしら? 守夜さんも辞めたみたいだけど……」
「え、そうなんですか?」

 今更気がついたのだが、俺は守夜美月と両思いになれたものの、連絡先の交換をしていなかった。
 昨日、送り届けたから家は知っている。
 でも、今のこの状況では会いに行くことは難しい。

 だから彼女が部活を辞めていたことは知らなかった。
 まぁ、ファン様の正体が俺であることもわかったし、上下部長たちが最低の人間だということも理解しただろうから、当然と言えば当然か。

「魔法少女は我々怪人族の敵よ。それを応援する部活に青野家の人間が入っていたなんて……一体どういうことかしら? まさか、あなたが、魔法少女を助けたタコ足の男じゃないでしょうね?」
「ま、まさか!! そんなことあるわけないじゃないですか!! それに、俺は自分が怪人族だってつい最近まで知らなかったんですよ? ただの偶然ですよ!! 当然、あのクソみたいな部活もやめますよ!!」

 あれが俺だとバレたら、本当に大変だ。

「そう……? ならいいけど」

 実は、昨日玄関で紅会長と父さんの話を聞いてから、俺は扇に連絡をしてファン様のふりをして欲しいと頼んでいた。
 魔法少女の本当のナイトは扇だし、これからはちゃんと仕事をすると言っていたからちょうどいい。

 魔法少女を助けるファン様(扇)の前に俺が現れば、紅会長の疑いは晴れるだろう。
 魔法少女に……守夜美月に、しばらく会うことはできないけれど、仕方がない。

 早く青野家に対する疑いをなんとかごまかして、俺は夏休みを満喫したいんだ!!
 もう、彼女……って、言っていいよな?
 そう、俺には、守夜美月という超絶可愛い……宇宙一可愛い彼女ができた。
 俺は、可愛い可愛い彼女と夏休みを満喫したい!!

 こんな紅会長のような、デッカイおっぱいじゃなくて、もっと控えめで、でも形の良さそうな守夜美月の方が————

 ————ん? こんなデッカイおっぱい?

「何? どうかした?」
「いや、あの……どうして、服を脱いでるんですか……?」

 ちょっと守夜美月とのあれこれを妄想していたら、俺の目の前で紅会長が薄いワンピースを脱ぎ始めた。

「どうしてって……私が着替えたいからに決まってるじゃない? まぁ、見ていたいと言うのなら、別に構わないけど」
「結構ですっ!!!」

 俺はあてがわれていた部屋に逃げ込んだ。

 なんなんだ……なんなんだこの女!!
 意味がわからない!!
 一体何がしたいんだ!?


「男のくせに、女王様の誘いを断るとは……」
「へっ!?」

 紅会長が俺に使えといった部屋は、誰もいないのになぜか声がする。

「女王様は、お前を欲しているんだぞ? そんなこともわからないとは……いや、わかっていて、わざとか?」
「な……なんだ!? 誰だ!?」

 よくみると、部屋の棚の上に置いてる水槽……1匹だけ泳いでいる赤い金魚が、こちらを向いている。

 まさか……金魚がしゃべってる!?


「据え膳食わぬは男の恥とは、まさにこのこと……」

 水槽の中にいた金魚は、水面からぴょんと跳ねて、頭を出し、そう言った。



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