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第25話 幸せな最後
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それがどういう状況だったか改めて説明しよう。
夜中の12時、俺は旧校舎の屋上で守夜美月と老朽化していたフェンスに挟まれていたわけだ。
この表現が正しいかわからないけど、俺にキスをせがむ彼女から逃れようと後ろに下がったけど、フェンスがぶつかっていてこれ以上後ろには下がれない。
背中にフェンスが当たっている状態で、俺は理性に負けてキスをしようとした。
でも、本当にその瞬間、老朽化していたとはいえ俺の体重を支える形になっていたフェンスがボロッと壊れて、俺は背中から落ちた。
3階建ての校舎の屋上から、背中から落ちたんだ。
俺の片手は彼女にしっかりと握られていたせいで、彼女も一緒に。
これは死ぬ。
絶対に死ぬ。
だけど、理性が崩壊していた俺は、そんなことよりキスがしたかった。
いや、それよりももう、本能的なもの……動物的勘……反射だと思う。
地面に落ちながらも、俺はせめて彼女だけでも助けようと、俺が下敷きになって、少しでも衝撃を和らげようとした。
俺よりはるかに小さな彼女の体を引き寄せて、抱きしめた。
絶対に、絶対に、彼女に傷一つつけてなるものかと思ったんだ。
それは本当に、時間にしたら一瞬の出来事だけど、俺が怪我するとか、死ぬとかそんなことはどうでもいい。
むしろ、ずっと抱きしめたいと思っていたから、幸せな最後だったのかもしれない。
地面に落ちるまで、あと何秒だろう?
もう、1秒もないか……コンマ何秒か?
痛いんだろうな……
あぁ、こんなことなら、本当にキスくらいしておけばよかった。
月が綺麗だな……
「あの……ファン様?」
あぁ、落ちてるのにまだ会話できるんだ。
やっぱり死に際って時間がゆっくりに感じるもんなんだな。
走馬灯はまだだけど……
「大丈夫ですか?」
「いや、これはどう考えても大丈夫じゃないよ……」
どうせ死ぬなら、言ってしまおうか……
「俺、君が好きだったんだ……ずっと」
「ほ、本当ですか!?」
「あぁ……ずっと、君しか見てなかった」
「そうだったんですね……嬉しいです!! ところで————」
こんな死に際に告白してしまった。
いや、それにしても、結構時間があるもんなんだな。
「————ずっと空中に浮いているんですけど、これって、どうなってるんですか?」
「え?」
空中に……浮いてる?
何言ってるんだ?
今俺は、俺たちは地面に落下してる最中で————
「……あれ?」
よく考えたら、不自然だった。
落下した時に感じた風がない。
時間が止まってるとか、そういう系かとも思ったけど、飛行機か何かのライトが移動して行くのが見えた。
時間は止まっていない。
動いている。
動いていないのは、俺の背中から下だ。
恐る恐る首を回して横目で背中の方を見た。
「う……浮いてる……ね」
俺の体は、地面から50cmくらいの高さで止まって浮いていた。
いや、正確には浮いているように見えた。
でも実際は、俺の背中から何かが……
何か謎の物体が何本も生えていた。
夜だから色はよくわからないけど、タコの吸盤みたいなのがたくさんついていて……
いや、っていうか、タコじゃん!?
タコの足じゃん!!?
意味がわからない。
なんだこれは…………
なんで、俺の体から、タコの足が生えてるんだ!!!?
「あの……ファン様? 大丈夫ですか? 一体どうなってるんですか?」
俺が抱きしめているせいで、俺の背中がどうなっているか見えない守夜美月にそう聞かれても、応えようがない。
俺だって……俺だってわからない!!
「ファン様? 聞いてますか? ねぇ、ファン様?」
「ちょ……ちょっと、待って」
彼女は見えない代わりに、俺の背中に手を回した。
「あ、ちょっと……!! 待ってって!!」
「…………え、なんですか? このヌルヌルしてるやつ」
ちょっと、あまり触らないでほしい。
くすぐったい。
「これがクッションになったんですかね? すっごくヌルヌルしてますけど……」
「あっ……ちょっと、あんまり触らないで」
やば……
変な感じがする。
このタコ足、触られている感覚めっちゃする。
「あっ……待って……くれ……それ以上は!!」
別のところが危ないから……っ!!
夜中の12時、俺は旧校舎の屋上で守夜美月と老朽化していたフェンスに挟まれていたわけだ。
この表現が正しいかわからないけど、俺にキスをせがむ彼女から逃れようと後ろに下がったけど、フェンスがぶつかっていてこれ以上後ろには下がれない。
背中にフェンスが当たっている状態で、俺は理性に負けてキスをしようとした。
でも、本当にその瞬間、老朽化していたとはいえ俺の体重を支える形になっていたフェンスがボロッと壊れて、俺は背中から落ちた。
3階建ての校舎の屋上から、背中から落ちたんだ。
俺の片手は彼女にしっかりと握られていたせいで、彼女も一緒に。
これは死ぬ。
絶対に死ぬ。
だけど、理性が崩壊していた俺は、そんなことよりキスがしたかった。
いや、それよりももう、本能的なもの……動物的勘……反射だと思う。
地面に落ちながらも、俺はせめて彼女だけでも助けようと、俺が下敷きになって、少しでも衝撃を和らげようとした。
俺よりはるかに小さな彼女の体を引き寄せて、抱きしめた。
絶対に、絶対に、彼女に傷一つつけてなるものかと思ったんだ。
それは本当に、時間にしたら一瞬の出来事だけど、俺が怪我するとか、死ぬとかそんなことはどうでもいい。
むしろ、ずっと抱きしめたいと思っていたから、幸せな最後だったのかもしれない。
地面に落ちるまで、あと何秒だろう?
もう、1秒もないか……コンマ何秒か?
痛いんだろうな……
あぁ、こんなことなら、本当にキスくらいしておけばよかった。
月が綺麗だな……
「あの……ファン様?」
あぁ、落ちてるのにまだ会話できるんだ。
やっぱり死に際って時間がゆっくりに感じるもんなんだな。
走馬灯はまだだけど……
「大丈夫ですか?」
「いや、これはどう考えても大丈夫じゃないよ……」
どうせ死ぬなら、言ってしまおうか……
「俺、君が好きだったんだ……ずっと」
「ほ、本当ですか!?」
「あぁ……ずっと、君しか見てなかった」
「そうだったんですね……嬉しいです!! ところで————」
こんな死に際に告白してしまった。
いや、それにしても、結構時間があるもんなんだな。
「————ずっと空中に浮いているんですけど、これって、どうなってるんですか?」
「え?」
空中に……浮いてる?
何言ってるんだ?
今俺は、俺たちは地面に落下してる最中で————
「……あれ?」
よく考えたら、不自然だった。
落下した時に感じた風がない。
時間が止まってるとか、そういう系かとも思ったけど、飛行機か何かのライトが移動して行くのが見えた。
時間は止まっていない。
動いている。
動いていないのは、俺の背中から下だ。
恐る恐る首を回して横目で背中の方を見た。
「う……浮いてる……ね」
俺の体は、地面から50cmくらいの高さで止まって浮いていた。
いや、正確には浮いているように見えた。
でも実際は、俺の背中から何かが……
何か謎の物体が何本も生えていた。
夜だから色はよくわからないけど、タコの吸盤みたいなのがたくさんついていて……
いや、っていうか、タコじゃん!?
タコの足じゃん!!?
意味がわからない。
なんだこれは…………
なんで、俺の体から、タコの足が生えてるんだ!!!?
「あの……ファン様? 大丈夫ですか? 一体どうなってるんですか?」
俺が抱きしめているせいで、俺の背中がどうなっているか見えない守夜美月にそう聞かれても、応えようがない。
俺だって……俺だってわからない!!
「ファン様? 聞いてますか? ねぇ、ファン様?」
「ちょ……ちょっと、待って」
彼女は見えない代わりに、俺の背中に手を回した。
「あ、ちょっと……!! 待ってって!!」
「…………え、なんですか? このヌルヌルしてるやつ」
ちょっと、あまり触らないでほしい。
くすぐったい。
「これがクッションになったんですかね? すっごくヌルヌルしてますけど……」
「あっ……ちょっと、あんまり触らないで」
やば……
変な感じがする。
このタコ足、触られている感覚めっちゃする。
「あっ……待って……くれ……それ以上は!!」
別のところが危ないから……っ!!
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