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第14話 初めてだから、優しくしてね
しおりを挟む「魔法少女を……やめたい?」
急に何を言っているんだ、魔法少女……
そんな小さい子供達の夢を壊すようなことを……って、確かにそういう意味では、大人の話か————
「私、子供の頃から魔法少女が出てくる絵本やアニメが大好きで、将来の夢は魔法少女になることでした」
そうなんだ……
「まさか本当に自分がなれるとは思っていなかったんですけど、10歳の誕生日に突然、母から魔法少女にならないかと……言われて、喜んで魔法少女になりました。そして、その時、実は母も、そして祖母も、かつて魔法少女をやっていたと知らされたんです」
親子3代で……魔法少女だったのか!!
なんて家系だ!!
「ずっと憧れていた、魔法少女に私もなれるんだと……本当に、最初はそう思ってたんです。でも……いざなってみたら————理想と現実は違いました」
魔法少女にいったい何があったのか……
とても悲しそうな表情だ。
きっと、なにか嫌な出来事を思い出しているのだろう。
「もう年齢的に、辛いんですよ……いつまでこんな、怪人のせいで夜も十分に眠れない日々を過ごさなきゃならないのかなって…………魔法少女にお休みはありませんでした。いつでも怪人が街に現れたら、ご飯を食べている時でも、お風呂に入っている時でも、寝ていても呼び出されて————」
ブラック企業か?
「——もう引退したいなって、魔法少女協会の人に相談しました。そしたら、自分で後任を探さなければならない……と」
いや、魔法少女の労働環境どうなってるんだ?
休みもない上に、辞めたいって言ったら代わりの人間を自分で探して来なければならないのか?
俺の家は代々続く魚屋だけど、従業員が辞める時にそんなことは絶対にさせないぞ?
普通、雇い主が募集かけて探すもんだろう……
「でも、後任を見つけるのって、私の仕事じゃないよね? 私、魔法少女だし……怪人倒すのが仕事だし……と思って、母に言ったら、自分が魔法少女を引退した方法を教えてくれたんです」
魔法少女は俺の手をぎゅっと握って、ちょっと頬を赤らめながら言った。
「運命の人と結ばれれば、魔法少女は魔法が使えなくなるから、すぐに引退できるって!!」
「運命の人……?」
「そうです。魔法少女には必ず、魔法少女を影から守り、そして支えてくれるナイト様が存在します。その人と結ばれて、大人になれば…………魔法少女は、魔法少女ではなくなるのです!!」
大人になれば……?
「初めてあなたに助けられた時から、私は確信していました。ファン様、あなたこそ、私の運命の人なのです。お願いです、ファン様。私を、大人に…………大人にしてください!」
魔法少女は、俺にそう言う今度はぎゅっと目を閉じた。
初めて見た時から、俺を魅了してやまない可愛らしい顔が……目の前にある。
守夜美月の顔が…………
ぷるぷるの唇が…………
目の前に…………ある!!
もしやこれは…………き……キス待ち!?
俺と!?
俺と魔法少女が!?
俺と守夜美月が!?
きききききキス!?
ど、どどどどどどどうしよう!!!
どうすればいいんだ!!!?
いや、でも、これは……その…………
彼女が、いいと……
俺でいいと思っているのなら…………
それで……————
俺は、彼女の肩に手を置いた。
「あ……あの、ファン様」
「えっ!?」
でも顔を近づけようとした瞬間に、目を閉じたまま彼女が話すから、すぐに驚いて手を引っ込めた。
違うのか!!
そういうことじゃないのか!!?
違うのか魔法少女!!?
「あの……初めてだから、優しくしてくださいね」
あぁ、安心してくれ。
こんなことは、俺も……初めてだ。
「ああ……わかった」
もう一度、彼女の肩に手を置いてゆっくりと顔を近づける。
やばい、なんだこれ……
めちゃくちゃ緊張する……
っていうか、今思ったけど、魔法少女めっちゃいい匂いする……
苺みたいな、甘い匂い————
「おい、何やってるんだぜぃ! 怪人がまた現れてるんだぜぃ!」
「わああああっ!!!?」
驚いて、変な声が出た。
いったいいつからいたのか、青い鳥が……しゃべる青い鳥が、苺をムシャムシャ食べながらベッドの上にとまっていたのだから————
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