12 / 51
第12話 ベッド、追加料金がかかります
しおりを挟む「待てー!! ハァハァ……魔法少女!!!」
カメラを持ったまま追いかけてくる部長たちを振り切ろうと、必死に走った俺と魔法少女がたどり着いたのは、現場からかなり離れた繁華街だった。
走っている間にも、別の目撃者が増えて、酔っ払いのおっさんなんかも一緒になって追いかけてくる。
このままでは、いくら魔法少女の姿ははっきりと映像や画像として残らないとはいえ大勢の人にこの可愛い顔を見られてしまう。
どうしよう……どうしたらいいんだ!!
息を切らしながら、なんとか路地裏に入った。
「ど……どうしましょう、ファン様! これでは、外に出られません」
「そうだな……仕方がない、君はその変身を解いて逃げればもう追ってこないだろう」
「でも、それではファン様は? きっと追ってくるあの人たち……特にあの息の荒いカメラのバンダナの方に酷い目にあわされてしまうのでは?」
「いいんだよ俺は……とにかく、まずは変身を解くんだ」
「は、はい」
魔法少女は俺の手を離さずに、守夜美月の姿に戻った。
「ほら、先に逃げて。俺は後からなんとか逃げ切るから」
「そんなこと、できません! あなたを残して、私だけなんて」
彼女は何度も首を左右に振って、俺の提案を聞き入れてはくれない。
「わかったよ……少し、時間はかかってしまうかもしれないけど、タイミングを見計らって、二人でここから出よう」
「はいっ!」
路地から出て行くタイミングを伺っていると後ろからポン、と肩を叩かれた。
「あなた……あの時助けてくれた仮面の人ですね!!」
「あ……あなたは、以前の!!」
そこにいたのは、俺が以前この仮面男の姿で魔法少女が来るまでの間に助けた、怪人に襲われた被害者のお姉さんだった。
「お困りのようですね。よかったら、うちに来ませんか?」
「え? うちにって……」
お姉さんはすぐそばの建物を指差す。
「私、このホテルのオーナーの娘なんです」
「ホテル?」
「お安くしますよ?」
裏側にいるため全然気がつかなかったが、この建物はホテルなのか……
それはここで出て行くタイミングを待ち続けるより、ずっと安全そうだった。
* * *
「それじゃぁ、ごゆっくり」
お姉さんが裏口からホテルに入れてくてれ、案内された部屋は中央にまあるい形のベッド一つがある広い部屋だった。
「ちょっと待て。頼んだのはこちらだが、なぜベッドが一つしかないんだ? しかも、なんだこの形は……」
「いやだわぁ、仮面のお兄さんったら……そんなの決まってるじゃない。こんなところで女子高生といたってことは、そういうことでしょ?」
そういうことって、どういうことだ……!?
「いやいや、意味がわからない。ベッドは二つないと……普通ホテルならあるだろう?」
ツインルーム以上の広さだと思うんだけど……なんでベッドが一つしか…………
「えー? そんな、一つで十分だと思うけどねぇ……ベッド用意するなら、追加料金かかるけど?」
「くっ……!!」
残念ながら、俺たちはお金をあまり持っていなかった。
さっき一泊の料金を聞いたら、ギリギリ払えるくらいだったのだ。
「ファン様、仕方がないですよ! 大きなベッドですしこれで大丈夫です!」
「いや、でも……」
「それより……さっきからずっと気になっていたんですが————」
守夜美月はベッドの横にあったたくさんの謎のボタンを指差して言った。
「このボタン、押してみてもいいですか?」
いや、確かに俺も気になりはしたけど……!!
「いいよ、押してごらん?」
お姉さんは笑いながらそういうと、彼女はポチッとボタンを押した。
「わー……!! 綺麗!!」
部屋の明かりがパッと消えて、天井に星空が描かれる。
「プラネタリウムですね……! こっちのボタンは?」
今度は七色の光がベッドの周りをチカチカと照らし始める。
「わー……!! コンサート会場みたいで楽しいですね!!」
感心している場合じゃない。
このホテル……もしかして……いや、もしかしなくても…………!!
「それじゃ、ベッドは一つで十分ってことで、ごゆっくり。お二人さん……」
お姉さんはニコニコと笑いながら、この怪しい部屋から出ていった。
「すごいです!! 私、こんなお部屋初めてです!!」
あぁ、神様、仏様……俺は一体、どうしたらいいんでしょう?
俺は今、無邪気に笑う魔法少女とラブホにいます————
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった
白藍まこと
恋愛
主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。
クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。
明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。
しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。
そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。
三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。
※他サイトでも掲載中です。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
陽キャグループを追放されたので、ひとりで気ままに大学生活を送ることにしたんだが……なぜか、ぼっちになってから毎日美女たちが話しかけてくる。
電脳ピエロ
恋愛
藤堂 薫は大学で共に行動している陽キャグループの男子2人、大熊 快児と蜂羽 強太から理不尽に追い出されてしまう。
ひとりで気ままに大学生活を送ることを決める薫だったが、薫が以前関わっていた陽キャグループの女子2人、七瀬 瑠奈と宮波 美緒は男子2人が理不尽に薫を追放した事実を知り、彼らと縁を切って薫と積極的に関わろうとしてくる。
しかも、なぜか今まで関わりのなかった同じ大学の美女たちが寄ってくるようになり……。
薫を上手く追放したはずなのにグループの女子全員から縁を切られる性格最悪な男子2人。彼らは瑠奈や美緒を呼び戻そうとするがことごとく無視され、それからも散々な目にあって行くことになる。
やがて自分たちが女子たちと関われていたのは薫のおかげだと気が付き、グループに戻ってくれと言うがもう遅い。薫は居心地のいいグループで楽しく大学生活を送っているのだから。
高校では誰とも関わらず平穏に過ごしたい陰キャぼっち、美少女たちのせいで実はハイスペックなことが発覚して成りあがってしまう
電脳ピエロ
恋愛
中学時代の経験から、五十嵐 純二は高校では誰とも関わらず陰キャぼっちとして学校生活を送りたいと思っていた。
そのため入学試験でも実力を隠し、最底辺としてスタートした高校生活。
しかし純二の周りには彼の実力隠しを疑う同級生の美少女や、真の実力を知る謎の美人教師など、平穏を脅かす存在が現れ始め……。
「俺は絶対に平穏な高校生活を守り抜く」
そんな純二の願いも虚しく、彼がハイスペックであるという噂は徐々に学校中へと広まっていく。
やがて純二の真の実力に危機感を覚えた生徒会までもが動き始めてしまい……。
実力を隠して平穏に過ごしたい実はハイスペックな陰キャぼっち VS 彼の真の実力を暴きたい美少女たち。
彼らの心理戦は、やがて学校全体を巻き込むほどの大きな戦いへと発展していく。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる