魔法少女に恋をして

星来香文子

文字の大きさ
上 下
8 / 51

第8話 さらわれたヒーロー 後編

しおりを挟む

「現れたわね!! 魔法少女!!」

「これ以上、好き勝手させないわよ!! 怪人族!! その人を離しなさい!!」

 女は魔法少女を睨み付けた後、ニヤリと笑った。
 そして、今度は俺の喉元にその長い爪を突きつける。

「フフ……この男がどうなってもいいのかしら?」 

 やばい……殺される……

「その手には乗らないわ! そこの人! あなた男でしょ? すぐに助けるから、ちょっとだけ我慢してね!!」

 え、どういうこと!?

 魔法少女はそう告げると、魔法のステッキを振りかざす。

「ランララブーーン!!」

 ステッキから放たれたピンクのハートが、俺の半径2メートルぐらいに円を描いて並ぶ。

「な……なに!!? ぐあああああああ!!」

 ハートに体が触れてしまった出目金怪人が、苦しみ出した。
 どうやらハートに触れた部分が、人間でいうところの火傷をしたようになっているようで、肩から煙が上がっている。

 え……もしかして、これって俺も触ったら焼ける!?

 ハートの円はどんどん小さく狭くなっていき、出目金怪人は消えてしまった。

「ちっ……」

 俺の喉元に爪を立てていた女は、舌打ちをしながら上に飛んで、ハートの円から抜け出した。
 ハートの円が、俺の体に迫って来たが、俺には何も起こらない。

「覚えておけ!! 魔法少女め!! 次に会った時は、必ずお前をこの手で殺してやる!!」

 怪人族の女王は倉庫の天井に開いていた天窓から外へ。
 夜の空へ消えて行った。


「大丈夫? 大変な目にあったわね……」

 魔法少女は俺に駆け寄ると、縛られていた両手を解いてくれた。
 そして、女に傷つけられた頬にそっと触れる。

「本当なら、この傷を治してあげたいのだけど、さっき力を使いすぎたから、できないの……ごめんなさい。でも安心して……? そこまで深い傷じゃないから、きっとすぐに治るわ」
「……あ————」

 ありがとうと言いたかった。
 傷のことは気にしなくていいと言いたかった。
 でも、何も言えなかった。
 ただただ頷くことしかできなかった。

 今ここで声を出したら、俺が仮面の男だと……ファンだということがバレてしまうのではないか……
 そう思ったらできなかった。

「あら……声が出ないの? かわいそうに……怖かったのね?」

 涙が出て来て、頬の傷にしみる。
 痛い。

「大丈夫。きっとすぐにに良くなるわ」

 そう言って、魔法少女はあの少し困ったような笑顔で微笑むと、俺に魔法をかける。

「ふにゃふにゃぽーぽ!」

 キラキラと輝くハートの粒が、目の前をクルクルと回っている。

「これで一晩寝たら私の顔は忘れてしまいます。さぁ、気をつけて帰ってくださいね!」


 いやだ……忘れたくない!!
 君の笑顔を、忘れたくない!!

 俺はぐっと目を閉じた。
 次に目を開けた時には、もう魔法少女はいなかった。


 * * *



「どうしたんだよ、メースケ!! その顔の傷!!」

 翌日、登校した途端、扇が驚いた顔をして俺に駆け寄った。
 頬の傷は魔法少女が言った通り、深い傷じゃなかったけど、俺は本当にどうしたらいいか困っていた。

「昨日、怪人に襲われて————」
「怪人!? ってことは、魔法少女に助けられたのか!?」

 教室に響き渡るくらい、扇があまりにも大きな声で言うから、俺は先に教室にいた生徒たちから注目されてしまう。
 俺の方を見る生徒の中には、もちろん、守夜美月もいたわけで……

「ああ、顔は全然思い出せないけど、助けられたことだけは覚えてる」

 きっとこの時、彼女は昨日助けた男が、クラスメイトだったと……
 青野冥助であったと初めて気がついただろう。

 魔法少女の顔は、はっきりと覚えている。
 だけど嘘をついた。
 俺の顔を見て、目を丸くしている彼女に、気づいていないふりをして嘘をついた。

「助けれもらったけど、怪人が怖すぎて声が出なくてさ……お礼言いそびれちまったんだ。もしまた会えたら、ちゃんと、お礼、言わなきゃな」


 無駄にヒーローのような口調にならないように、ちょっとだけ、声を普段より低くして。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

【完結】お父様。私、悪役令嬢なんですって。何ですかそれって。

紅月
恋愛
小説家になろうで書いていたものを加筆、訂正したリメイク版です。 「何故、私の娘が処刑されなければならないんだ」 最愛の娘が冤罪で処刑された。 時を巻き戻し、復讐を誓う家族。 娘は前と違う人生を歩み、家族は元凶へ復讐の手を伸ばすが、巻き戻す前と違う展開のため様々な事が見えてきた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

処理中です...