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番外編① 月下の憂鬱
月下の憂鬱(4)
しおりを挟む玉藻前が封印されている玄武の湖畔は、観光地として有名になっていた。
早朝から、まばらではあるが、その美しい風景を撮影しに来ている。
まさかその美しい湖の中に、あの有名な妖怪である玉藻前が封印されているなんて、誰が想像するだろうか。
(あの光は……一体何だったんだ?)
窓から見えた、あの青い光は湖の中からだったのか、それとも、べつの場所からだったのか。
どのくらいの間光っていたのかもわからない。
それでも、あの光を見た時に感じたものは、茜にとって悪いものではなかった。
茜は息を整えながら、観光客が増えたため湖の周りに最近増設された足場の上を歩いていると、その姿に驚いた観光客が声をかける。
「ちょっと……お嬢ちゃん!! そんな格好で…………裸足じゃないか!!」
「えっ……?」
「一人で来たのかい? パパとママは!?」
氷点下近くあるこの場所で、小さな子供がパジャマ姿で、しかも裸足なのだ。
大人たちが心配しないわけがない。
「あ……えーと……」
どう返答したらいいかわからずにいると、他の観光客からも注目されてしまい、茜は来た道を戻り、また冷たい雪の上を裸足で走っていった。
(あぁ、不便だ!! 子供の体は、やっぱり不便だ!!)
* * *
結局、何の成果も得られないまま、白い息を吐きながら家に戻るが、鍵が掛かっていて入れない。
出るのは簡単だった。
飛び降りればいいだけだった。
だが残念なことに、茜が眠るのを確認するまで起きていた佐藤は、まだ茜がいなくなったことにも気づいていないし、それどころか、睡魔に負けて家事室で眠ってしまっている。
家の鍵なんて持っていない。
身長が足りず、チャイムすら鳴らせない。
どこかの部屋の窓でも空いていないかと、家の周りをぐるぐると回ったが、全ての窓には鍵がかかっていて、唯一空いているのが、自分が飛び降りた2階の子供部屋の窓だけだった。
(どうしよう…………)
壁をよじ登るにも、子供の体では難しい。
ふてくされて、俯きながら門の前で座っていると————
「ねぇ、どうしたの?」
聞き覚えのない子供の声がして、顔を上げると、心配そうに見つめる瞳と目が合った。
「おウチに入れないの?」
その姿が、かつて自分を牢から救い出した少年と重なる。
(似ている…………)
しかし、目の前にいる少年は、明らかにあの時の少年とは違う。
あの時の少年は、大人になって、その寿命がつきた後、自分がその人になった。
そして、その体は、もう何百年も昔に土に帰った。
それに、この少年の右目は、前髪で少し隠れているが、瞳の色が赤みを帯びている。
「呪受……者…………?」
茜がそう呟くと、少年は首をかしげた。
「じゅじゅしゃ?」
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