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番外編① 月下の憂鬱

月下の憂鬱(3)

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 茜は、日本各地を旅する中でいくつか玉藻前が封印されている殺生石の場所を知った。
 全部でいくつあるかは知らないが、いずれその封印が解かれる時がくる可能性があることも、その地を守っていた陰陽師や巫女などから聞いている。

 現在住んでいるこの家は、その殺生石が封印されている湖がある場所の近くに建っている。
 さらに、偶然にも去年亡くなった双子の祖父は、その湖を守っている寺院の先代の住職だった。


「今の光は……一体————」

 見たことのない青い光の柱。
 それが何なのか、まだわからない。

 だが、茜の心は、その光がこの終わることのない憂鬱な日々を変える何かであるような………長年待ち望んでいた、その時が来たのではないかという期待で震えていた。


 茜は階段を駆け下りると、靴を履くことも忘れて、玄関を出ようとした。
 しかし残念なことに、体が5歳児の茜には、ドアの鍵を開けることができない。

(くそっ……!! こんな時に限って、どうして…………!!)

 早く外に出たいのに、背伸びをしても、ジャンプをしても鍵に手が届かない。

「茜ちゃん? どうしたの!? こんな時間に……」

 家政婦の佐藤が物音に気がついて、音がする玄関へ行くと、普段大人しくて病弱なはずの茜が、靴も履かずに冷たいタイルの上で飛び跳ねていた。
 その異様な光景に、一気に眠気が覚めて、佐藤は茜を抱き上げて二階の子供部屋連れて行く。

「放せ!!」
「落ち着いて、茜ちゃん!! 今何時だと思ってるの!?」
「時間なんて知るか!! 湖が……青い光が……」
「…………怖い夢を見たのね。大丈夫よ、大丈夫よ、おばちゃんがちゃーんと、茜ちゃんのそばにいるから」

(何言ってんだこの女っ!!)

 千年以上生き続けていても、5歳児の体では大人の力には叶わない。
 簡単に子供部屋に戻された茜は後悔する。


 茜は無理やり寝かされたベッドから、怨めしそうに窓を見つめるが、すでにあの青い光は消えていたのだ。

(こんなことなら、窓から外に出ればよかった!!)

 バレないように2階の窓から飛び降りた方が、不死身の茜にとっては好都合だった。


 * * *


 翌朝、茜は寝たふりをして、佐藤が子供部屋から出て行ったのを確認すると、うっすらと積もった雪の上に、裸足のまま飛び降りた。

 小さな足跡が、中庭の新雪の上に残こる。
 湖に向かって足跡は伸びて行く。

 茜には足の冷たさなんて、どうでもよかった。
 小さな体で、湖を目指して、必死に走った。

 その道中すれ違った人々の中に、右目の瞳が赤い女と子供がいたことに、茜は気づかない。

 呪受者に魅きつけられ、妖怪たちが集まっていたが、そのことにすら、気がつかないほど、茜は必死だった。





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