68 / 92
最終章 受け継がれるもの
第68話 神殺し
しおりを挟む「刹那……あの人を見なかったか?」
「あの人?」
玉藻を滅した後、あたりを見渡したが、洞窟から共に逃げたはずの松宮幸四郎が見当たらない。
玉藻にそそのかされただけなのか……それとも、自らの意思で、神殺しの儀式を行ったのか…………
なんにせよ、あの人が士郎さんを殺したことに違いはない。
神になるために、たくさんの人を殺してきた。
「見てないわ……もしかしたら、あの寺院の方に行ったのかしら? 私、寺院には寄らずに直接祠を目指したのよ。ここについて直ぐに、妙な気配を感じたから、玉藻がいるんじゃないかと思って————」
洞窟で起きたことを話したが、刹那は何も見てはいなかった。
それどころか、寺院の状況も…………。
「颯真、幸四郎様……いえ、幸四郎は、神殺しの儀式をしていたのよね? 蝋燭の数は残り何本くらいだったの?」
「確か、2本だったはず……でも、あの祭壇は俺が壊したけど」
刹那は俺の話を聞いて、眉間にしわを寄せる。
「神殺しの儀式は、祭壇がなくてもできるはずよ。儀式で一番大事なのは、確か神通力や霊力のある者の血肉を食らうことのはず————」
「それなら……あの本堂の遺体は————」
「おそらく、残りの2本分を補うために食べたのよ。松宮家は、私たちの一族とは違って、妖怪と戦う力を持っているものはいないわ…………能力を持っていない人間には、できないのよ。人間でなくなるしか、方法はないわ」
驚愕の事実に、背筋がゾッとする。
玉藻を戦った時とは、違う。
妖怪よりも、人間の方が、ずっと恐ろしい————
「とにかく、幸四郎を探しに行きましょう……神殺しの儀式が完成しているのであれば、一体なにが起きるか————」
刹那がそう提案した時、狛七が慌てた様子で飛んで来て、叫んだ。
「大変です!! 八咫烏の揺籠が、攻撃されています!!」
* * *
八咫烏の揺籠がある神社へ戻ると、その上空に暗い雲が覆い、まるでそこだけ夜のままのようだった。
「まさか、ここが襲われるなんて、盲点だった……!!」
(白虎の竹林で、玉藻さえ倒せば、全てが終わると思っていたのに、こんなことになるなんて————)
緊急招集された面々は、とっくにそれぞれの場所へ戻ってしまっただろうし、このままでは、慧様の命が危ない。
地下で慧様の守りをしている人数は、一体何人いるのか…………
術で隠されていた地下へと続く階段の入り口は、無理やりこじ開けられたのようだった。
急いで階段をかけ降りると、狛一が倒れている。
「狛一!!」
「っ……じゅ……呪受者……早く……慧様を————」
「兄様!! 兄様!!」
狛七に後を任せて、奥へ進む。
奥へ行くほど、真っ黒で、不穏な空気が漂う。
血の匂いもする。
「父さん!! やめて!! もうやめて!!」
八咫烏の揺籠を守っていた巫女たちが倒れている中で、学さんは何度も必死に父親を止めようとするが、最早人ではなくなった父親に、その声は届かない。
なんの躊躇いもなく、幸四郎は息子を振り払うと、揺籠の中へ入っていった。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
夫を愛することはやめました。
杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
あやかし学園
盛平
キャラ文芸
十三歳になった亜子は親元を離れ、学園に通う事になった。その学園はあやかしと人間の子供が通うあやかし学園だった。亜子は天狗の父親と人間の母親との間に生まれた半妖だ。亜子の通うあやかし学園は、亜子と同じ半妖の子供たちがいた。猫またの半妖の美少女に人魚の半妖の美少女、狼になる獣人と、個性的なクラスメートばかり。学園に襲い来る陰陽師と戦ったりと、毎日忙しい。亜子は無事学園生活を送る事ができるだろうか。
この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。
天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」
目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。
「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」
そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――?
そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た!
っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!!
っていうか、ここどこ?!
※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました
※他サイトにも掲載中
心を失った彼女は、もう婚約者を見ない
基本二度寝
恋愛
女癖の悪い王太子は呪われた。
寝台から起き上がれず、食事も身体が拒否し、原因不明な状態の心労もあり、やせ細っていった。
「こりゃあすごい」
解呪に呼ばれた魔女は、しゃがれ声で場違いにも感嘆した。
「王族に呪いなんて効かないはずなのにと思ったけれど、これほど大きい呪いは見たことがないよ。どれだけの女の恨みを買ったんだい」
王太子には思い当たる節はない。
相手が勝手に勘違いして想いを寄せられているだけなのに。
「こりゃあ対価は大きいよ?」
金ならいくらでも出すと豪語する国王と、「早く息子を助けて」と喚く王妃。
「なら、その娘の心を対価にどうだい」
魔女はぐるりと部屋を見渡し、壁際に使用人らと共に立たされている王太子の婚約者の令嬢を指差した。
【完結】陰陽師は神様のお気に入り
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
キャラ文芸
平安の夜を騒がせる幽霊騒ぎ。陰陽師である真桜は、騒ぎの元凶を見極めようと夜の見回りに出る。式神を連れての夜歩きの果て、彼の目の前に現れたのは―――美人過ぎる神様だった。
非常識で自分勝手な神様と繰り広げる騒動が、次第に都を巻き込んでいく。
※注意:キスシーン(触れる程度)あります。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
※「エブリスタ10/11新作セレクション」掲載作品
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる