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第六章 カミノセカイ
第59話 カミノセカイ
しおりを挟む真っ暗だ。
何も見えない……
「ここはどこだ……?」
声を発しても、周りには誰もいない。
返事はない。
手を伸ばしながら歩いてみても、何もない。
俺は自分の足音だけが反響する空間の中にいるようだ。
「俺……何をしていたんだっけ?」
記憶が飛んだのか、この空間へ来るまで何をしていたのか思い出せない。
思い出そうと考えていると、耳に違和感があることに気がついた。
「ピアス……翡翠のピアスがない……!!」
春日様にもらった、俺の力をコントロールするためのお守りのようなものだった。
全て力を使うと、体が持たないから……ずっとつけていなければならない、あのピアスがない。
初めて自分で妖怪と戦った時も、青龍の高原で刹那と体を入れ替えた時も、このピアスを忘れていたから、意識を失って、動けなくなった。
「どこで……失くした?」
そう呟いた時、真っ暗だった空間にふわりと淡い白い光が現れる。
しめ縄の巻かれた、大きな幹がその光を発していた。
「この木————」
その幹に触れると、ほのかに暖かい。
「————御神木?」
そして、その幹が発している光と同じものが、いつも魔封じの矢を作るときに使う札を入れているポケットの中からも、発していることに気がつく。
そっと手を入れて、中のものを出してみると、光っていたのは札じゃなくて、札と一緒に入れておいた、俺宛のあの白紙の手紙だった。
「もしかして……この紙…………この木からできてるのか?」
そう思った瞬間、白紙の手紙は、俺の手を離れて、ふわふわと宙に浮かびあがる。
小さく折りたたんでいたのに、手紙はゆっくりと開かれて元の大きさになると、一文字ずつ文字が紙の上に現れた。
『この手紙をお前が手にしているということは、もう私はこの世にいないのだろう。やはり運命を変えることは、私一人ではできなかったようだ。この先、私はお前を守っていくことができない。ならば、せめてと思いこの手紙を死ぬ前に託した』
ゆっくりと現れた文章を、俺は脳内でばあちゃんの声で再生する。
『これは、契約書だ。お前があの日、救った娘が私の代わりにお前を守る盾となる。あの娘……茜を連れて戦いなさい。そして、必ず玉藻を滅して、この長年の呪いから、ふざけた運命から、これから生まれる子供たちの未来を救って欲しい』
読み終えたところで、手紙はふわりと舞い、俺の手元に戻ってくると、白紙に戻ってしまった。
「茜を……連れて戦え?」
わけがわからないまま、紙を眺めていると御神木の光が弱くなっていく。
また、闇が訪れて、そして————
「颯真!! 起きろ!!」
————名前を呼ばれたのと同時に、左頬を叩かれて目が覚めた。
両目の下にほくろがある、絶世の美女の顔が目の前にある。
「——茜……?」
茜の後ろに、心配そうに見つめる学さんがいて、一緒に俺の顔を覗き込んでいる。
そこで、全てを思い出した。
「玉藻は、どこへ行った?」
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