覚醒呪伝-カクセイジュデン-

星来香文子

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第六章 カミノセカイ

第54話 勾陳の洞窟

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 玄武の湖で玉藻に遭遇して以来、他の殺生石が封印されている場所にはしばらくなんの動きも報告も上がっていなかった。

 その間、俺が封印を強化しに向かった帝台ていたいの庭は大きな神社の敷地内にあり、すんなりと封印の強化ができた為、残るは3カ所となっていた。
 守るべき場所が絞られてたことによって、逆に力を分散せずに済んではいたが、松宮家にあったこの殺生石のついた木像は、一体どこから来たのか……。

 本当に残り3カ所なのか?
 実はすでに玉藻が封印を解いているのではないか、という不安がよぎる。

「まずは一体どこの殺生石なのか調査する必要があるわね……残りの封印の地は、全て里の者の中でも、力の強い者たちが守っている場所だから、後回しにして来たけど…………直接見に行った方がよさそう。松宮家が裏で操作しているとしたら、どこかで嘘の報告をしているはず」

 刹那のこの提案により、白虎びゃっこの竹林に刹那、朱雀すざくの孤島にユウヤがそれぞれ向かうことになった。

 そして、俺は勾陳こうちんの洞窟に。

 勾陳の洞窟は、松宮家が管理している土地の中にある為、この木像についている殺生石がそこのものである可能性が高い。

「勾陳の洞窟って……もしかして、あそこかな?」
「学さん、場所知ってるんですか?」
「うん、子供の頃に何度か行ったことがあるよ。分家の屋敷の裏手に山があってね……親戚の子たちと遊んでいたら絶対に入ってはならないって、きつく言われていた洞窟があるんだ」

「その場所なら、アタシも知ってるけど……」
「そう……————って、茜!?」

 いつの間にか俺たちの背後から話に参加していた茜にその場にいた全員が驚く。

「いつの間に……というか、どうやって隠し里に入ったんだ!? なんでこの場所を知ってる!?」

 隠しの里は結界を入る方法を知っている里の人間しか入れないはずだ…………それに、全く気配を感じなかった。

「私が連れて来たのよ。春日様が一度会ってみたいって言ってたから……まぁ、あんたは授業終わってすぐにコンビニに連行されてったから知らなかっただろうけど」


(ああ、そうだ。たまには付き合えって言われて、コンビニに行ったんだった。まぁ、入る前に逃走する羽目になったけど……)

 明日あいつらに会ったら何があったか聞かれるんだろうな……と、うまい言い訳を考えるのが面倒だと思いながら、ため息をついた。

「このアタシより重大な客が来るって話だったから、刹那の部屋で待たされてね。全然呼びに来ないから、様子を見に来たらこれさ。またあの狐が男を誑かしたんだろう?」

 茜はその美しい顔に不敵な笑みを浮かべる。

「それに今回は刹那も一緒に行けないのなら、アタシが代わりについて行ってやるよ……あの洞窟なら、おそらくアタシの方が詳しいよ」

「どういう事だ?」
「あれは何十年前だったかな? 明治? いや、大正か? アタシはあの洞窟に住んでいたからね」


 茜は何年、いや、何百年も生きている不老不死の八百比丘尼といわれる存在だ。
 俺はそれを理解しているが、なんのことかさっぱり分からない学さんはわけが分からずに困惑している。

「えっ!? え!? どういうこと!? この子……女子高生じゃないの!? 一体、何歳なの!?」








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