53 / 92
第六章 カミノセカイ
第53話 時の権力者
しおりを挟む「父の様子がおかしくなったのは、1ヶ月ほど前のことです……」
涙をぬぐいながら、彼は話し出した。
「父が突然、再婚すると言い出しました。父は口は悪いけど、女性に対しては奥手な方で、母が亡くなってからは一度もそんな話はなかったのですが……数日前に家政婦としてやってきた女の人と、そういう関係になってしまったと……」
眉間にシワを寄せて、ぐっと唇を噛み、一度鼻をすする。
「そして、僕に家を出て独立するようにと言って、僕の結婚まで決めて来て————確かに、ろくに仕事もせずに家にほとんど家にいた僕も悪いとは思っていましたが、どう考えてもおかしい。僕は三男だからと、甘やかされて生きて来たんですよ? なのに、こんなに急に僕を追い出そうとするなんて……!!」
そう訴えながら、その時の様子を思い出したのか、また瞳いっぱいに溢れそうになった涙を袖で拭った。
「それも全部、あの女の人のせいだと思って、僕は父に考え直すように訴えようと父の部屋に行ったのですが……そこで、僕は見てしまった。その木像に向かって、父は————」
そして、彼は木像を睨みつけた。
「まるで神や仏を崇めるように、話しかけていました。頭を下げて、手をすり合わせて……あんな姿は初めて見ました。我が家は、松宮家は代々続く八咫烏の御三家です。崇める神はこんな狐ではない……父は、おかしくなってしまったんです!!」
「そんな……幸四郎のような人間が、なぜ……————」
春日様は予想外の話に驚いて、顔色が悪くなる。
(幸四郎……?)
その名前を聞いて、そこで初めて俺は思い出した。
あの時、街でこちらを見ていた初老の男性…………あれはそう、八咫烏の揺り籠で、慧様にそう呼ばれていた人だ。
最初に殺生石の封印を解いてしまった、じゃんけんTVの存在を丸々消すことのできる権力の持ち主————
玉藻は、時の権力者を誑かして、意のままに操る妖怪だ。
今の時代、時の権力者は…………天皇でも、政府でもない。
松宮家は、八咫烏の財源を担っている。
今この時代の権力者は、松宮家頭首の松宮幸四郎だと言っていいだろう。
「だから、勝手に決められてしまった結婚式当日の今日、父の部屋からこれを盗み出して、逃げたのです」
(それで、街中を和装で逃げ回っていたのか……)
「僕は、あなたたち陰陽師のように、妖怪や幽霊を見ることはできませんが、それでも、なんとなくわかるんです。悪いものは、悪いと感じます。でも、何もできない」
彼は悔しそうにまた唇を噛む。
その表情からは、息子として父をどうにかしたいという気持ちがひしひしと伝わってくる。
「僕にはその力がない。だから————ここへ来たのです。春日様、お願いします。助けてください。父を、元に戻してください」
また、深々と頭を下げてた彼の体は震えている。
ショックを受けて、押し黙ってしまった春日様の代わりに、俺は彼に言った。
「俺が行きます。玉藻の仕業だというのなら、俺が行かないと……呪受者である、俺が」
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい
矢口愛留
恋愛
【全11話】
学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。
しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。
クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。
スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。
※一話あたり短めです。
※ベリーズカフェにも投稿しております。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。
天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」
目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。
「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」
そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――?
そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た!
っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!!
っていうか、ここどこ?!
※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました
※他サイトにも掲載中
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる