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第六章 カミノセカイ
第52話 藤色
しおりを挟む「どうしてわかったのかと聞かれても……僕は生まれつき記憶力が普通の人よりいいんだ。春日様と歩いていた君の顔を見ただけだよ……京都の神社で」
「京都の神社……」
(八咫烏の揺籠のことか!!)
「あの人と一緒にいたんだし、一緒にいたあの髪の長い女の子も……昔会ったことがある……刹那ちゃんだったかな?」
春日様のことも、刹那のことも知ってる。
それに、八咫烏の揺籠のことまで…………
「とにかく! 僕は春日様に相談があるんだ……あの人だったら、きっと、なんとかしてくれるはず……!!」
彼の言葉には、嘘はないようだった。
一体何があったのかわからないが、春日様でなければならないということは、何か妖怪や悪霊関係で問題が起きているに違いない。
「わかった……念のため、里に行く前に連絡してみる。あんたの名前は?」
「あぁ、ごめん。名乗っていなかったね。僕は松宮学。春日様なら、名前を言えばわかってくれるはずだ……」
松宮学は、ぎゅっと大事そうに藤色の包みを抱きしめ、真剣な眼差しで俺の目を見た。
* * *
大屋敷に着くと、刹那が門の前に立っていて、丁重に案内をする。
「こちらへどうぞ。松宮様」
他の屋敷の者たちも、彼のことを知っているのか、彼が通ると頭を下げて会釈をする。
一体何者なんだろう?
知らないのは俺だけなのか?
「学、久しぶりさね。すっかり大人になって……——」
客間に入ると、春日様が待っていて、春日様の顔を見た途端に彼は泣きだした。
そして、抱えていた藤色の包みをそっと畳の上に置くと、両手をついて、彼は土下座をする。
「春日様。助けてください。お願いします」
「学、顔をあげなさい。一体何があったのさね。ちゃんと話してくれなければわからないよ」
「父が……おかしいのです。まるで別人のようになってしまった……何かに取り憑かれているとしか思えないのです」
春日様に促されて、パッと顔を上げてそう言った彼の頬に、涙が伝う。
(父——?)
春日様は一瞬驚いたように目を見開いたが、このままでは話にならないと、まるで幼い子供をあやす母親のように泣きじゃくる彼を抱きしめて、背中を叩きながら言った。
「お前の父に、何があった?」
俺と刹那は顔を見合わせるしかない。
若いとはいえ、彼は明らかに二十歳を過ぎた大人の男だ。
大人がこんな風に泣いてしまうなんて、よほど大変なことがあったに違いない……。
「これを、見てください」
少し落ち着いた彼は、藤色の包みを春日様に差し出た。
見るからに高級そうな材質の風呂敷を春日が解いていくと、何重にも包まれていた物が形を現していく。
「これは……————」
手のひら二つ分くらいの大きさの、着物を着た女性の体の形をした木像だ。
しかし、顔が人間ではない。
狐の顔をしている。
そして、その狐の口は、ビー玉程の小さな丸い石を咥えていた。
「————殺生石!?」
それは、然るべき場所で封印されているはずの、殺生石の一つだった——————
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