覚醒呪伝-カクセイジュデン-

星来香文子

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第五章 時をかける歌

第49話 時をかける歌

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「ちょっ……ちょっと、あんた何で降りてきたのさ!!」


 焦る家政婦と、状況が飲み込めない俺たちをよそに、その男はハッと気がついて、2階に戻ると、目の下に黒子が2つある女の子を人質にとって、ナイフを突きつけながらまた階段を降りて来た。

「お、お前ら、警察を呼んだら、この子の命はないからな!! そこから動くなよ!!」

 そう叫んで、この寒い時期に不自然に空いていたリビングの窓から、家政婦と一緒に庭へ出て行った。

「茜ちゃんをはなせ!!!」

 その犯人を追いかけ、5歳の俺は必死に走って行く。

「颯真!?」
「え、ちょっと、颯真くん!?」

 どうやら、俺は神隠しにあったのではなく、強盗事件に巻き込まれていたようだ。

 犯人とそれを追う俺を追いかけるのに、仕方がなく土足で中に入ると、ダイニングテーブルの前に本物の家政婦が縛られている。

「尚海さん、俺が捕まえてくるから、その人頼みます!!」
「わ、わかった!」


 一瞬何が起きたのか理解できなかったため、出遅れたが、俺とばあちゃんも犯人を追いかけて走った。

「颯真、さっきのあの犯人の後ろにいたもの……見えたかい?」
「ああ、何か良くないものが取り憑いてた」


 あの犯人には、悪霊かもしくは妖怪か一瞬だったから判断はできないが、何か黒い影のようなものが取り憑いている。

 朝になって、徐々に増え始めた観光客の間を縫って、犯人たちは逃げ回った。
 俺たちもそれを追いかけ、尚海さんが警察に連絡したようで、その後を警官が追いかけてくる。
 二手に分かれた犯人の女の方は警察に捕まったが、男の方はナイフを持っていたため簡単には手出しできず、気がつけば、あの湖まで来ていて、逃げ場を失っている。

「ちっ……ここまでか」

 足場の上に立つ男、その男に向かって、息を切らしながら

「茜ちゃんを放せ!!」

 と、5歳の俺は男がナイフを持っているというのに、その足にしがみついている。

「こんの、くっそガキ!しつこいぞ!!」

 人目があったが仕方がない……何か術を使おう……!!

 そう決めた時には、もう5歳の俺は男に首根っこを掴まれて、宙に浮き、湖の中へ落とされてしまった。

「颯真!!!!!」


「くっそ……!!!!」

 そして、俺は反射的に何も考えずに湖の中に飛び込んだ。
 5歳の俺を助けるために。

 冷たい湖の中……5歳の俺は泳ぐことも、浮くこともできずに沈んで行く。
 俺は手を伸ばして、必死にその小さな身体を抱きかかえた。





 水面から顔を出すと、夜になっていた。

 太陽の代わりに月が、俺を照らしている。

 抱きかかえていたはずの、5歳の俺はいなくなっていた。
 その代わりに、光を放つ金魚が、俺の周りをくるくると泳いでいる。


「おーい、どうした? 封印の強化は無事に終わったのかい? 颯真」

「ユウヤ…………?」

 ユウヤが水面を歩いていた。



 * * *



 ずぶ濡れのまま、俺は寺院へ走った。

「おい、颯真どうしたんだよ!! 封印は!?」
「封印するのに、寺院に行かなきゃいけないんだよ!! あの歌の歌詞を……ちゃんと確認しなきゃ」
「歌? なんのことだ?」
「ばあちゃんのことだ、きっとあの寺院に行けば……——」

 俺は、ばあちゃんが歌ったあの歌の歌詞をきちんと教わる前に、こちらに戻って来てしまったようだ。
 でも、ばあちゃんのことだ、きっとあの寺院にいけばわかる。
 だからこそ、俺は過去に飛ばされたんだ。
 あれはきっと、夢じゃない。

 ユウヤの制止を振り切って、俺は寺院の裏門を叩いた。

「すみません!!」

 待ち構えていた里の者が、門を開け、俺の顔を見て驚く。

「ど、どうしたのですか? その格好は……」

 そして、その里の者の後ろに、僧侶が一人立っていた。

「東海さん……?」

「あなたは…………あの時の!!」


 12年前より歳を取った東海さんは、俺の顔を見て笑った。

「あなた、やっぱり……悪霊?」

「違います!!」

 それは、あの出来事が、夢ではないという証拠だった。
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