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第五章 時をかける歌
第48話 神隠し
しおりを挟む「そーまーくーん」
「どこだーぁあ!」
「颯真ー!!」
朝日が昇る中、行方不明となった俺の捜索が行われた。
昨夜はちゃんと両親とともにホテルにいたのに、両親が明け方目を覚ますと、俺はいなくなっていたのだという。
まるで神隠しにでもあったかのように、上着も防寒靴もそのままに、忽然と姿を消していた。
さすがに、警察や両親に会うわけには行かず、俺は寺院の僧侶たちやばあちゃんと幼き日の自分を探すことになる。
こんなに1日で自分の名前を聞いたのは初めてだ。
「颯真、何か覚えていないかい? お前のことなんだから」
ばあちゃんにそう聞かれて、思い出そうと記憶を辿ってみるが、行方不明になったなんて、聞いたことがない。
そういう事実がもしかしたらあったのかもしれないが、両親やばあちゃんからも物心ついてからそういう話を聞いたことが、おそらくないんだろう。
ちゃんと覚えていたら、事前に助言もできたはずなのに…………
5歳の時の記憶なんて、もうとっくに薄れてしまっていて、断片的なものしかない。
(覚えているのは、茜に出会ったことと、湖に落ち……————)
「湖……ばあちゃん、俺はまだ湖には落ちてないよな?」
「湖に? 何を言ってるんだい?」
ばあちゃんの様子からして、俺はまだ湖に落ちていない。
「なら、きっと……湖だ!」
それなら、きっとこの後、湖に落ちるはずだ。
記憶は曖昧だけど、落ちたのが夜ではないことは覚えている。
「いや、待て颯真。湖なら、さっき私たちがいたじゃないか……あそこにいたなら、さすがに気がつくだろう……」
「確かに……」
それもそうだ。
ひょっとしたら別の道を通って湖に行った可能性もあるが、ホテルの方角から考えると、湖までの道は1本道のはず……
「だったら、茜を探した方が早いかも……」
「茜……?」
俺は、茜を助けるために湖に落ちたはず。
でも、茜って……この当時どこに住んでいた?
「七瀬茜って、女の子。双子の女の子がいるはずだ……俺と同じ年の」
ばあちゃんは全く検討がつかないようだ。
ということは、茜とも昨日の段階では出会っていないのだろう……
(誰に聞けばいい? それとも、やっぱり湖に行くのが先か?)
そう思っていた時、俺たちの前方で一緒に捜索していた尚海さんが振り向いた。
「茜ちゃんなら、先代の住職のお孫さんだ……でも、あの子は体が弱いから、滅多に外に出ることは————」
(先代の住職の孫!?)
「どこですか!! 茜の家は!!」
* * *
尚海さんの案内で、茜の家に行くと、そこは寺院とホテルのちょうど間にある門構えの大きな立派な家だった。
「こんな朝早くから、どうしたんです?」
呼び鈴を鳴らすと、中から出て着たのは家政婦で、この家の家族たちは昨日から東京に行ってしまっていて、自分以外誰もいないという。
(そんな……じゃあ、茜は一体どうして?)
「お子さんたちも連れて行ったのかい? 体の弱い子がいるはずだが……」
「ええ、そうですよ……ご主人様は奥様とお子さんの家族3人で、東京の方へ」
「3人で?」
「ええ、3人で」
俺が聞き返しても、平然と家政婦はそうだと言い張った。
「おかしいな……この家の子供は双子なんだけど」
「そ……それは————」
(この家政婦、なにかおかしい……)
その時、家政婦以外は誰もいないはずの家から、ガタンともの音がして————
階段から降りて来た人物と、目があう。
黒い服に目指し帽を被った男だった。
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