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第五章 時をかける歌

第41話 予言

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 水面に浮かぶ金魚の死体を、月明かりが照らし出す。

 冷たい水の中に長時間いたせいか、それとも、誰もいなくなってしまったこの状況に対する恐怖からだろうか……
 俺の体はガタガタと震え出し、寒くて寒くて仕方がなかった。

“死”という言葉が脳裏によぎったのは、これで何度目だろう。

 なんとか体を動かして、足場までたどり着いたとき、そこで初めて気がついた。

「———— 雪だ……」

 空から、雪がはらはらと舞い落ちては、地面に溶けて消えてゆく。
 10月の中旬に、雪が降るなんて……


 震えながら、足場に上がると、あまりの寒さに体が思い通りに動かない。
 やはり周りを見渡しても、刹那も茜もいない。

(こんな時に使える術の一つでも覚えておけばよかった……)

 そう思いながら、寒すぎる夜道を必死に歩いて、ユウヤと里の者たちが待機していたあの寺院になんとかたどり着く。

 しかし、寺院の裏門は硬く閉ざされていて、声をかけても、誰も応答してはくれない。
 残っている里の者が、俺たちの帰りを待っていたはずなのに、誰も待機していないようだった。

「すみません! すみませーん!! 誰かー!!」

 真っ白な息を吐きながら、何度か呼んだところで、やっと門が開いた。

 門の隙間から、そっと顔を出した若い僧侶が、俺を見た途端、顔を真っ青にして、大声をあげる。

「…………で、でたあああああああああああああ!!!!!」

(俺は幽霊か何かか!?)


 その声に、他の僧侶たちが集まってきて、俺はいつの間にか取り囲まれ、ずぶ濡れのまま彼らに捕まり、縛られて、運ばれた。


「えっ!? ちょっと!! なんで!?」




 * * *



「こら! 尚海しょうかい、お前のせいで、とんだ失礼を!! 何が出ただ!! どこからどう見ても、人間じゃないか!!」

「でも、だって、あんな姿でこんな深夜に現れたんですよ!? ついに、僕も霊が見えるようになってしまったのだと、思うじゃないですか!!」

「言い訳をするんじゃない!!」


 叫び声をあげた尚海さんは、あんな格好……ずぶ濡れで、無駄に長い前髪を顔に貼り付けた状態の俺を見て、幽霊だと勘違いしたらしい。

 俺は若い僧侶たちにお堂に担ぎ込まれたあと、待ち構えていたこの寺の住職・東海とうかいさんの前に放り込まれたが、月明かりではなく、照明の下にきたおかげで、俺は人間だとわかってもらえたようで、今やっと解放された。

「すみませんね、うちの尚海がとんだ失礼を…………外は寒かったでしょうに、なぜそんな格好を?」

「あ、いや……その…………湖に落ちまして」
「湖に!? 冬の湖に落ちるだなんて、なんて危険な……!! 尚海、すぐに風呂の用意をしなさい」
「はっ……はい!」

 尚海さんは走ってお堂を出て行った。

 俺はお堂で必死にストーブにあたりながら、服を乾かして暖をとる。

「実に申し訳なかった。しかし、お許しください。他の者たちも、私の予言を信じたばかりに、とってしまった行動なのです」

「私の予言?」

 東海さんは、数珠を持った手を顔の前で合わせると、一礼して言った。

「11月の終わり頃、月明かりの下、悪霊が姿を現わし、この地に災いが起こる…………という、予言です」


(11月の……終わり頃?)

「ちょっと待ってください。まだ今10月ですよ? いくら予言があったからって、来月の話じゃないですか」

「…………いえ、今は11月ですが?」

「え?」

「今日は11月26日……まさに、11月の終わり頃ですよ?」

「そ……そんな。だって、俺は修学旅行でここに————」

 東海さんは不審そうに俺を見た。

「あなた、やっぱり……悪霊?」
「違います!!!」

(どういうことだ……? 俺は湖の中に1ヶ月以上いたってことか? いや、そんなことありえない)

「そうですよね。私は予言するだけで、実際に見ることはできないのですが…………そうだ。あの方をお呼びしましょう」

「あの方?」

「今、幸運なことに近くのホテルにご家族で旅行にいらしているので……あのお方なら、きっと」

 ちょうど戻ってきた尚海さんに、東海さんは指示を出した。

「尚海、明日の朝にでもホテルに連絡して、あのお方…………にこちらにお越し頂けないか聞いてみなさい」


(——な、なんだって!?)




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