覚醒呪伝-カクセイジュデン-

星来香文子

文字の大きさ
上 下
51 / 92
第六章 カミノセカイ

第51話 逃走中

しおりを挟む

 人混みをかき分けて、逃げる和装の若い男がいた。
 彼は両手で大事そうに藤色の包みを抱えていて、黒いスーツにサングラスの男達から逃げているようだった。

「なんだ? ひったくりか?」
「え? 泥棒?」
「何かの撮影じゃない?」
「なんで和装? 結婚式か?」

 こんな街中で、黒いスーツにサングラスの男達に追われている人がいるなんて、街行く人々の関心を惹かないわけがない。
 しかも、逃げる彼も黒の紋付き羽織袴。
 今は成人式でも卒業式のシーズンでもないから、余計に目立っている。

 まさか、その様子を遠巻きに見ている側から、なぜか自分が見られる側に回されるなんて、誰も予想できないだろう。


「えっ!?」

 逃げ回っていた彼は、俺と目があった瞬間に、俺めがけて方向転換。

「おい、なんかこっち向かって来てないか? 颯真」

 必死の形相で、クラスメイト数人とコンビニに入ろうとしていた俺の腕をガシッと掴むと、そのまま俺を引っ張って走り続けた。

「ちょ……!? え、なんなんですか!?」
「君、陰陽師だろ!!? ちょっとだけでいい、僕に協力して欲しい!! 頼む!!」
「え!? なんで知って……————」
「頼むよ!! 僕はどうしても今捕まるわけにはいかないんだ!! なんかこう、追っ手から逃れられる術はないの!?」


(そんな事急に言われても……!!)

「こんな街中で、術なんて使えるわけないだろ!!」
「そんな!! なんとかしてよ!! お金なら後でいくらでも払うから!!」
「そういう問題じゃ……」
「早く!! 頼むよ!!」

 俺は何もしていないのに、追ってくるスーツの男達の迫力に気圧される。
 逃げる彼も必死だし、追ってくる男達も必死だ。

 これが番組だったら、追われる側の姿が見えなくなったら諦めて追ってはこないのがルールだが、そんなことは御構い無し。

「仕方ないな……俺の上に乗ってください」

 別に何もしてないのになんでこんなことになったと思いつつ、俺は彼をおぶって、上に跳んだ。
 通学時によく使う距離を短縮する術だが、これは普通の人から見たら急に人がいなくなる術だから、あまり使いたくはなかったけど、仕方がない。

 何があったのかわからないが、こんなに必死に助けを求められて、放っておくことができなかった。

 スーツの男達の視界から完全に消えて、建物の屋根や屋上を跳ねながら安全な場所を求めてあたりを見ると、路上に止められた車の前に立っている初老の男性がこちらを見ているような気がした。

(あの人、どこかで見たような気がする…………誰だっけ?)



 * * *




「ありがとう、助かったよ」

 誰も人がいないのを確認して、小さな公園に降り立ったが、彼は俺におぶさったまま、全然降りようとしない。

「あの、いい加減降りてくれませんか?」
「このお礼は必ずする。だからさ……」

(え、何この人、人の話聞いてない……)

「……僕を連れて行ってくれないか? 君たち陰陽師の暮らす里……隠しの里に」

 俺は、彼の言葉に驚いて、足を支えていた手を放した。

「わっ、危ないなー!! 急に落とさないでくれよ!! これが壊れたらどうするの!!」

 藤色の包みを大事そうに抱え、助けてやったのに彼は俺を睨みつけている。
 しかし、問題はそこじゃない。

「どうして、里のことを? それに、さっきもなんで俺が陰陽師だって思ったんだ?」

 俺はただ街中にいただけで、術を使ってもいないし、この男からは妖怪や悪霊という感じでもない。
 瞳の色も、今まで出会った妖怪達と同じあの緋色ではないし、普通の人間にしか見えない。

 どちらかというと、彼が大事そうに持っているこっちの藤色の包みの中身の方から、何か不思議な感じがする。

 ————この男、一体何者だ?





しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った

五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」 8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

心を失った彼女は、もう婚約者を見ない

基本二度寝
恋愛
女癖の悪い王太子は呪われた。 寝台から起き上がれず、食事も身体が拒否し、原因不明な状態の心労もあり、やせ細っていった。 「こりゃあすごい」 解呪に呼ばれた魔女は、しゃがれ声で場違いにも感嘆した。 「王族に呪いなんて効かないはずなのにと思ったけれど、これほど大きい呪いは見たことがないよ。どれだけの女の恨みを買ったんだい」 王太子には思い当たる節はない。 相手が勝手に勘違いして想いを寄せられているだけなのに。 「こりゃあ対価は大きいよ?」 金ならいくらでも出すと豪語する国王と、「早く息子を助けて」と喚く王妃。 「なら、その娘の心を対価にどうだい」 魔女はぐるりと部屋を見渡し、壁際に使用人らと共に立たされている王太子の婚約者の令嬢を指差した。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

いたずら妖狐の目付け役 ~京都もふもふあやかし譚

ススキ荻経
キャラ文芸
【京都×動物妖怪のお仕事小説!】 「目付け役」――。それは、平時から妖怪が悪さをしないように見張る役目を任された者たちのことである。 しかし、妖狐を専門とする目付け役「狐番」の京都担当は、なんとサボりの常習犯だった!? 京の平和を全力で守ろうとする新米陰陽師の賀茂紬は、ひねくれものの狐番の手を(半ば強引に)借り、今日も動物妖怪たちが引き起こすトラブルを解決するために奔走する! これは京都に潜むもふもふなあやかしたちの物語。 第8回キャラ文芸大賞で奨励賞をいただきました! エブリスタにも掲載しています。

彼女はいなかった。

豆狸
恋愛
「……興奮した辺境伯令嬢が勝手に落ちたのだ。あの場所に彼女はいなかった」

処理中です...