覚醒呪伝-カクセイジュデン-

星来香文子

文字の大きさ
上 下
32 / 92
第四章 破鏡重円

第32話 絶世の美女

しおりを挟む

 なにをどう表現したらいいのかわからない。
 そんなものはいるわけがないと、否定していたものが、今、目の前にいる。

 担任教師に促されて、教室に入って来た彼女は、立ち姿も振る舞いも、もちろん顔も、そして声も美しいの一言では片付けられないほどの絶世の美女だった。


七瀬ななせあおいです。よろしくお願いします」


 色白の肌と対比して、目の下のほくろはより黒く見える。
 少し髪色が明るいのは、おそらく彼女の瞳の色が青いから地毛だろう。
 ユウヤと同じで、どこか外国の血が混ざっているに違いない。

 席替えをしたばかりで、不幸にも一番前になってしまった俺は、今、幸運にもこの絶世の美女を一番近くで正面から眺めていることになった。

 あまりの美しさに、じっと見つめてしまった俺の視線に気づいたのか、彼女はにっこりと微笑み返してくれる。


(か……かわいい)


「席は……そこの空いている席に座って」
「はい、わかりました」

 担任が指定したのは、俺の後ろの席。
 俺の横を通る時、彼女は小声で言った。

「よろしくね」

 と、俺にだけ聞こえるように。


 * * *



 休憩中の話題は、もちろん転校生、七瀬葵の話題で持ちきりだった。

「かわいすぎだろう!!なんだあの転校生は!!」
「芸能人とかか!? こんな田舎にあんな美女くるとか奇跡か!?」
「顔も可愛いし、しかも、頭もいいみたいだぞ!?」
「それにあれだよ、あのおっぱい!!! でかくね!?」
「これは、校内の美女ランキング1位確実じゃねーか!! 現女王の刹那ちゃんもかなわねーレベルだよ!!」

 と、男子たちは興奮気味。

 しかし、女子たちはというと、その様子が面白くないようで、誰も彼女に話しかけることはなかった。

「何よあれ、男子たちあんなに騒いで……たかが転校生じゃない」
「ハーフってだけでしょ?」
「そうよ、ちょっと可愛いからって……」
「ていうか、校内美女ランキングって何? いつ集計したのよ……男子キモいんだけど」


 七瀬葵のおかげで、男子と女子の間に溝が生まれ始めていた。


「ちょっと……やばいわね」
「何が……?」

 刹那はそんな様子を遠巻きに見ながら、不安そうな顔をしていた。

「校内の雰囲気よ。あの転校生……七瀬さんが来てから、嫉妬と憎悪の感情が高まって来てる…………颯真、あんたも知ってるでしょ? そういう強すぎる負の感情は、ほかの霊や雑鬼たちに影響してくるって」

 確かに、負の感情は強すぎると、生き霊になったり、その辺に浮遊してる霊たちを悪霊へ変えてしまう場合がある。
 悪口や暴言は、言葉にすることで、言霊となり呪いとなるケースもある。
 現に、俺のこの右目の呪いも、玉藻の言霊によるもらしい。

「そうだけど、そんなに心配するほどのことか? 転校生が珍しいってだけだろ?」

 時間が経てば、珍しさなんて薄れる。
 それが当たり前になるのだから。

 俺はそう思っていた。

 しかし、刹那は俺の顔を見て、眉間にしわを寄せる。

「何言ってるの……? 颯真、あんた、もしかして見えてないの?」

「何を?」


「七瀬さん、多分普通の人間じゃないわよ」

「は……!?」


 俺は刹那の言っていることが、全然理解できなかった。






しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

彼女はいなかった。

豆狸
恋愛
「……興奮した辺境伯令嬢が勝手に落ちたのだ。あの場所に彼女はいなかった」

完結 愛のない結婚ですが、何も問題ありません旦那様!

音爽(ネソウ)
恋愛
「私と契約しないか」そう言われた幼い貧乏令嬢14歳は頷く他なかった。 愛人を秘匿してきた公爵は世間を欺くための結婚だと言う、白い結婚を望むのならばそれも由と言われた。 「優遇された契約婚になにを躊躇うことがあるでしょう」令嬢は快く承諾したのである。 ところがいざ結婚してみると令嬢は勤勉で朗らかに笑い、たちまち屋敷の者たちを魅了してしまう。 「奥様はとても素晴らしい、誰彼隔てなく優しくして下さる」 従者たちの噂を耳にした公爵は奥方に興味を持ち始め……

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った

五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」 8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

処理中です...