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第三章 新月の夜
第30話 襲来
しおりを挟む「いってぇえええ!!!」
「それはこっちのセリフよ!! 力の使い方をいい加減覚えなさい!! あんた、私の体で全力出したわね!?」
刹那の頭突きで、俺は目が覚めた。
「あれ…………元に戻ってる?」
刹那と入れ替わっていた体が、いつの間にか元に戻っていて、俺の前に刹那の顔があった。
「何よこれ……しんどい……つらい……バカ颯真っ」
蕪妖怪が刹那たちを呼んできたのか、あの温泉のある神社の待機所で刹那は布団の上から動けないようだ。
体が元に戻ったことで、必然的に俺は体力も通常になっているが、刹那はかなりしんどいらしく、口しか動かさない。
「体が重い……動けない…………あと、頭が痛い…………」
(それは今、思いっきりお前が頭突きしたからだ…………)
刹那と入れ替わった時に気がつくべきだったのかもしれないが、俺は春日様からもらった翡翠のピアスのおかげで、力を尽くしても意識を失うまでは行かないように力のコントロールができる。
ずっと身につけている物だからこそ、ピアスも付け替えるべきだった事を忘れていた。
「毎日鍛錬してきたこの私の体で、こんなに体力を消耗するなんて…………入れ替わったのが私じゃなかったら、死んでるんじゃないの?」
「ごめん…………」
怒り任せに力を込めすぎた。
でも、青龍の高原の殺生石は一番大きく、封印が解かれると厄介なところだと聞いていた。
これで少しは安心できるだろうけど、力の使い方をもっと上手くできるよにならなければ…………
それは今後の俺の課題だろう。
「まぁ、まぁこれでやっと一つ封印を強化することができたんだから、よかったじゃないか。外傷はないんだし、刹那はゆっくり休んで、体力を回復させなよ」
怒る刹那をなだめながらユウヤがそう言った。
「刹那の綺麗な脚に傷がつかなくて本当に良かった」
刹那が動けない事をいいことに、ユウヤは布団の上から刹那の膝あたりをさする。
「ユウヤ、起きたら殺す。絶対殺す」
刹那はユウヤにそう言い残して、眠ってしまった。
俺は今だに痛い額をさすりながら、刹那の代わりにユウヤの背中を蹴った。
ちょうどその時だった。
今朝はあんなに晴れていたのに、夕方になった今、雷鳴が轟いたと思ったら、すぐに雨が音を立てて降り出したのは————
そして、それとほぼ同時に、狛六が襖を開けて部屋に飛び込んできた。
「大変です……!! 颯真様!!」
「どうした? 狛六、そんなに焦って————」
「玉女の峡谷が、玉藻の…………あの女狐の手に落ちました」
「な……なんだって!?」
春日様の予想では、最初に封印の解かれた三台の杜に場所から近い場所から狙われているのではないかと言っていた。
玉女の峡谷は、三台の杜から一番離れた場所にある。
予想は外れ、9カ所ある殺生石の封印の3分の1が玉藻の手に落ちたことになる。
残りの殺生石は、あと5カ所。
一刻も早く、残りの殺生石の封印を強めなければ——————
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