覚醒呪伝-カクセイジュデン-

星来香文子

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第三章 新月の夜

第25話 手の正体

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 新月の夜が明けて、朝を迎えた。

 狛六が用意してくれた朝食を食べて、朝風呂に入ってからまた、青龍の高原を目指して歩き始める。
 よく晴れている朝だ。
 昨日と同じルートを通ってはいるが、見えている景色が全然違う。

「こんなによく見えるなら、明るくなるのを待ってからの方がよかったな……」

 これだけ明るければ、あの式神たちの姿もすぐに見えるだろう。
 もう女湯に戻されるのはごめんだ。
 あの手が出て来る前に、なんとかしなければ。

「この辺りだね。僕たちがあの手に足首を掴まれた場所は…………」
「そうだな…………昨日はよく見えなかったけど、この辺りから地面の色が少し違う」

 夜だと絶対に気がつかない。
 あの式神たちがいるエリアの方が、若干色が濃い。
 雨は降っていなったが、そのエリアだけ表面が乾ききっていない感じだ。

「僕が先に行ってみるよ。不本意だけど、おとりになろう……」

 ユウヤは一歩前へ足を踏み出して、色の違う地面の上を歩いた。
 俺と刹那は、手が出て来る瞬間を狙う。


 二歩、三歩と、ユウヤは比較的ゆっくりと歩いていく。
 手が出て来るタイミングはバラバラだが、出て来るときに必ず、音がする。
 川の流れる水の音で、近くまで来ないと気づくことはできないが、観察していればわかるはずだ。


「颯真、あそこ……!! 土が少し盛り上がって、動いてる!!」
「ああ、あそこだな…………」

 式神に気づかれないように、小声で話した俺たちは、地面の中を這う何かを目で追った。

「もう3匹いるな…………いや、4匹か?」

 土の中を移動するそれは、徐々に増えていき、ユウヤの背後に忍び寄る。

 ズズズっと音を立てて、地面から手が伸びる。
 人間の手と同じ、5本指の手が一本、ユウヤの足首を掴んだ。


「今だ!!」


 ユウヤは引っ張られる前に、逆にその手を足首から剥がして、思いっきり上に引っ張った。


「出てこい!! 話をしようじゃないか!!!」

 ユウヤに地面から引き抜かれたその式神は、かぶの体に、人間の腕が2本生えた妖怪だった。

「気持ち悪っ!!!!」

 離れて見ていた俺は、思わずそう口に出してしまった。

 その引き抜かれた蕪を地面に引き戻そうと、別の蕪が手でその体を掴み、さらにその蕪を別の蕪が掴み……と、芋づる式でズルズルと地面から出て来る。
 そうして地面から出て来た5匹の蕪は、暴れながらユウヤに抵抗を続ける。

「大きなカブの逆バージョンみたいね…………」

 刹那はその様子を見てそう呟いた。

「ちょっと、二人とも!!! 見てないで助けてよ!! 結構なチカラの強さだよ!!?」


 助けを求めるユウヤの元へ駆け寄り、一番下の蕪を掴んだ。



「おい、蕪。話をしよう。ばあちゃんの…………呪受者・飛鳥様の話だ」

 ばあちゃんの名前を出したら、ピタリと動きが止まった。
 そして、その蕪から腕が生えているという気色悪さで気がつかなかったが、こいつら……全員目と口がある。

「我があるじの話だと——————……?」

 5つの緋色の瞳が、一斉に俺を見た。







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