覚醒呪伝-カクセイジュデン-

星来香文子

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第三章 新月の夜

第22話 流れる水の音

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「どこ行ったんだ? あいつは……」

 来た道を戻り、刹那と手分けしてユウヤを探したが、全然見つからない。
 刹那の式神の明かりだけじゃ、あまり遠くまで見えないから姿を確認することが難しい。

 数分前に通った岩場まで来てみたが、手がかりは何もなかった。

(このままだと、俺が迷子になりそうだな…………)

 そう考えていると、突然右の足首を、何かに掴まれた。

(な、なんだ!?)

 そこで初めて気がついた。
 自分が立っている岩場の中から、手のようなものが出ていたことに。

 それが俺の足を引っ張って、俺は後ろに倒される。

「な……なんだこれ!?」

 後頭部をぶつけると思ったが、さらにもう一本ズズズっと音を立てて、手が出てきて、そいつが俺の頭をキャッチ。

 そして、さらにズズズっと音を立て出てきた数本の手が俺の体を掴み、胴上げをされる。

 何度か空中に投げられては、掴まれてを繰り返しかえした。

(なんで胴上げされてるんだ!? どうなってる!?)

 まずは状況を立て直さなければと、抵抗しようとしたが、その手達は俺を————

 ————勢いよく川へ投げ飛ばした。


「わああああああああ!!!!」


「ちょ……颯真!? どうしたの!?」


 俺の叫び声が聞こえたのか、刹那が遠くの方で呼んでいるのがわかったが、時すでに遅し。

 ドボンと川に落とされた。

(やばい…………この川、かなり深い!!!)

 泳げないわけではないが、いきなり投げ入れられた川は思っていたより深く、そして流れも速い。

 浮きたいのに、さっきのとは違う別の何かが、俺の足を引っ張って、真っ暗な川底へ引っ張って放さない。

 目を開けても、何も見えない。
 光のない新月の夜だ。

 反射する光もなにもない…………

(くそ…………息がもたない…………)

 意識を失いそうになったとき、引っ張っていた何かが俺の周りからいなくなった。
 そして、急に水に反射している光がみえる。

 俺はその光を目指して、最後の力を振り絞って、川から出ようと上へ泳いだ。






 暖かい、オレンジ色の光に段々と近づいていくと、水面からようやく顔を出すことができた。

(助かった……————)


「はぁ……はぁ……」

 酸素を得るために呼吸をする。
 呼吸をするのに必死で、周りなんて見えていなかった。

 なぜ顔を出したこの場所が、こんなにも明るくて、暖かいか…………なんて、気に留めてなかった。

 だけど————

「きゃあああああああああああ!!!!」

 ————女の悲鳴が聞こえて、自分の状況に気づかされる。


 裸の女の人が、いっぱいいる。

「なんなのよ!!! 一体いつから入っていたの!?」
「どうなってるの!? これで二人目よ!?」
「なんで女湯に、男が二人も浸かってるのよ!!!!!!」

 俺は、川に流されたはずなのに、なぜか女湯の中にいた。


 あのオレンジの光は、この女湯の室内灯の明かりで、暖かいのは、温泉の中だったからだった。


(え、え? どういうこと!?)


「見てんじゃないわよ!! この変態!!!」

まるで漫画のワンシーンかのように、飛んで来た洗面器が、俺の顔面に直撃した。












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