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第三章 新月の夜
第21話 新月の夜
しおりを挟む温泉地独特の硫黄の匂いが立ち込める中、俺、刹那、ユウヤの3人は、観光地から少し離れた青龍の高原と呼ばれている場所を目指していた。
9カ所ある玉藻の一部が封印されている殺生石の中でも、一番大きなものがその青龍の高原にあるらしい。
しかし、新月の夜は暗い。
人工的な明かりのない方向へ進んでいる為、進めば進むほど、闇の中に消えてくような錯覚に陥る。
電気まで明るくはないが、先を歩く刹那が放った蝶の式神が放つ光が頼りだった。
そんな状況の中、道しるべとなるのは、大きな川だ。
この川の上流に付近に、殺生石があるらしい。
「ここは観光地だから、神社への参拝客も多いの。ちゃんと管理もされている。観光客向けの偽の殺生石まで置いてあるくらいだからね」
この土地は、一般人の中でも妖怪の類に興味のある人にとっては、一番有名な場所らしく、その殺生石がある意味観光名物となっているらしい。
夕方に温泉街近くでその伝承と殺生石の案内が書かれた看板を見たが、はっきりと玉藻のことが書いてあった。
その半分は事実とは異なるけれど。
「玉藻前の…………本当の結末は一般の者たちには知られていないけど、いつの時代も、勝手に伝承して、勝手に話を書き換えて、大きくしていく輩はたくさんいるってことよ。それを利用して、金稼ぎをする連中もね。今でいう、マスゴミね」
刹那はそう言って、俺たちを先導しながら、川沿いを歩いていた。
「春日様や慧様もそうだけど、刹那もやけにマスコミとか、ネットとかを嫌うよな。どうしてなんだ?」
「世の中には、裏と表があるのは知ってるでしょう? 表だけ知っていれば、いいのよ。そういう裏側を暴いてやろうとするバカなやつらが、インターネットの普及とともに行動しやすくなったから、慧様も、春日様も手を焼いているの。いくら幸四郎様たちが削除しても、次々に湧いてくる。科学の進歩は、人類にとっては武器でもあるけど、毒でもあるのよ。神の領域に、足を踏み入れようとしているのだから」
「…………なんか、壮大な話だな」
「ところで、颯真」
刹那はくるりと振り返って、俺の方を見た。
「さっきから、ユウヤの足音が聞こえないだけど、ちゃんとついてきてる?」
「え?」
「いない…………わね」
俺たちは3人で……刹那、俺、ユウヤの順で歩いていた。
だけど、いつの間にかユウヤの姿がない。
「どこに……いったんだ?」
刹那は式神を少し広範囲に散らして、明かりを拡散したが、ユウヤの姿はどこにもない。
「迷子か?」
「まさか…………いくらあいつがバカでも、川沿いをまっすぐ歩けばいいだけよ? この光について歩けばいいだけなんだから」
「じゃぁ、どこに?」
「…………とりあえず呼んでみて」
「そうだな…………ユウヤーーーー!!どこだーーーー!!!」
俺たちは耳を澄ましたが、なんの返事もない。
川の流れる水の音しか、聞こえなかった。
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