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第二章 八咫烏の揺籠
第20話 憑代
しおりを挟む文王の丘で、倒れていた俺たちは、春日様の命を受けて後から来た里の者達に背負われ、狛七達とともに一番近くにあった神社に運ばれて、社務所で手当を受けることになった。
「全く! 呪受者様のくせに、封印の仕方を知らないなんて! 信じられないですよ!!」
文王の丘を守っていた獅子は、小学生くらいの女の子に擬態して、布団から動けない俺の周りをぐるぐると回り、文句を言い続けた。
「しかも逃げられた! どれだけ頑張って守ってたと思うんですか!? やっと来たと守ったら、全然ダメじゃないですか! 守ってたボクまで吹っ飛ばすし!!」
「面目無い…………それに関しては本当に、ごめんなさい」
まだまだ勉強不足なんだ。
情けないことに。
春日様にもらった翡翠のピアスのおかげで、なんとか力のコントロールはできてたはずなんだけど…………まだ体が自分の力に慣れていないんだ。
全力を出してしまうと、その反動で動けなくなる。
「もっと修行してください!」
「はい……」
「あのまま、狛七が消されていたらボクも呪受者様を呪っていましたよ」
「これ以上やめてくれ。玉藻の呪いだけで十分だ。……それより、狛七は大丈夫なのか?」
狛七は憑代さえ直せ戻れるそうだが、バラバラにされた部分の欠損が激しく、しばらく別の憑代を用意しなければならないらしい。
俺たちを運んだ里の者たちがそう話しているのを聞いた。
「大丈夫ですよ。今そこで寝てるでしょ?」
「そこ?」
獅子が指をさしたのは、俺の腹の上だった。
小さな……手のひらサイズくらいの白い子犬……の、ぬいぐるみが寝ている。
「え? これが?」
「狛七です」
狛七は大型犬よりも大きいくらいのサイズだったのに、だいぶ小さくなっていた。
「そう……か。ごめんな、狛七」
俺はそっと、狛七の小さな頭を指で撫でた。
* * *
「もう体は大丈夫か? 颯真」
翌朝、里に戻った俺とユウヤを見て、春日様は玉藻に逃げられたことを攻めることはしなかった。
「はい、ご心配をおかけしました……」
「封印の任務には行けそうかい? 一応、今日中に封印の仕方を教えて、明日には出立してもらうことになるさね」
「はい……」
春日様は優しい人だ。
ばあちゃんと一緒で、俺を叱りつけたりはしない。
「ちゃんと士郎叔父さまの話を聞いてないから、いざって時使えないのよ。しっかりして。持ってる力は本物なんだから……」
刹那は怒りながらも、俺たちのことを心配して言っている。
口と足癖はわるいけど、里のことを一番に思ってるのは刹那だ。
「まぁまぁ、刹那、俺の教え方が悪いのかもしれない。そんなに怒るな。怖い思いをしたのだから」
士郎さんも、ちょっと突拍子もないことをしたりする人だけど、ちゃんと俺のレベルに合わせてくれている。
大切な師匠だ。
里の人たちも、最初は好奇の目で俺を見ていたが、今ではなんてことない。
まるで生まれた時から俺はここで育ったような、みんな家族のように接してくれる。
ここへ来て二年。
右目の呪いが覚醒して二年経った。
俺にとって、大切な人たちがこんなにたくさんいる。
俺がいるせいで、妖怪たちに殺されるかもしれないのに、みんな俺を信じて守ってくれている。
だからこそ、玉藻を復活させるわけにはいかない。
絶対に止めてみせる。
今度こそ、絶対に。
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