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第一章 紺碧の空と緋色の瞳
第9話 大鴉
しおりを挟む逃げた。
烏は緋色の瞳を光らせながら、俺に近づいてくる。
そいつは近くで見ると俺の目測よりも遥かに大きい大鴉だった。
ひょっとしたら、俺より大きいかもしれない。
とにかく逃げなければと、俺は必死に逃げた。
しかし、ここは先ほどから何度も何度も結局同じ場所に戻って来てしまう結界の外側だ。
逃げ場もなければ、戦える武器もない。
持っているものといえば、あの何に使うのかよくわからない黄色い札くらいだ。
「こ……これでもくらえっ!!」
とにかく何かは起こるかもしれないと、大鴉に向かって一枚投げてみた。
「は?なんだ、小僧。そんな紙切れ一枚で何ができるというんだ……!愚か者め!!」
何も起きない。
それどころか、大鴉はその大きな嘴を上下に開くと、中から小さな烏たちが何匹も飛び出して来た。
(気持ち悪っ!!!)
大鴉よりも体が小さい分小回りがきく小さい烏たちは、群れをなして俺に近づいてくる。
振り払うのにも、結局何も持ってなくて、残りの1枚を投げるという物理的な行為しかできなかった。
その内、小さな烏たちに追いつかれ、その嘴で服を突かれ…………
何匹もの烏が、俺の服を嘴で挟んで、空中へ持ち上げる。
「さぁ、遊びはおしまいだ。その目、その体、この私が頂こう」
「い、いやだ!!放せっ!!」
(死にたくない、死にたくない————!!!)
「そうか、死にたくないか。だが、困ったことに、もうお前は死ぬ。この私に見つかった時点で、お前の死は決まっていたのだよ。なぁ、小僧、最後に言い残したことはないか?お前は呪受者だからな……特別に聞いてやろう」
緋色の瞳に反射する俺の顔は、あの時と同じく恐怖にただ大きく眼を見開いているだけだっだ。
だけど、あの時とは違う。
俺は、相手が妖怪であることを知った。
あの時は、相手がなんなのか分からないことが、何よりも怖かったが、今は違う。
思い出せ、ファンタジーなら、漫画だって小説だっていくつも読んだ事があったじゃないか……
こういう時はなんて言ってた!?
あの漫画の主人公は、物語の主人公たちは、こういう時なんて言ってた!?
思い出せ、思い出せ……っ!!
「きゅ……」
「きゅ?」
「きゅうきゅうにょりつりょう!!!」
「なっ……何ぃ!?」
その瞬間、俺と大鴉は、三方向から飛んできた光に包まれた。
「うっ……やってくれたな、小僧…………!!」
バチバチと音を立てて、俺の服をくわえていた小さな烏達は青い炎に焼かれて消える。
あの、適当に投げた黄色い札…………
偶然にも、それは綺麗な三角形の陣を描く光の点となっていた。
「あぁっ…………アアアアアアっ」
大烏は逃げようとしたが、もう遅い。
青い炎が大鴉を包み、離さない。
燃え盛る炎の中で、大鴉はその姿を消した。
大鴉が消えると同時に、俺も空中から落ちていく————
助かった。
いや、待て、このままだと、地面に叩きつけられる。
助かってない。
どうにかしなければ————でも、もう…………
体に力が入らない。
意識が遠のいていく。
だけど、その時、風が吹いて————
白檀の香りがした。
そんな気がした——————
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