上 下
5 / 92
第一章 紺碧の空と緋色の瞳

第5話 隠しの術と絶対の結界

しおりを挟む

「お前が呪受者であることを隠す為に、姉様はこの家に絶対の結界を張って、さらに、お前の右目にも隠しの術を掛けたのだろうさね。代々の研究で、呪受者はそうやって自分の孫がその力を使えるほどの年齢になるまでは封印してきた。しかし————」


 春日様は、俺の右目を目を細めてじっと見つめた。
 右側だけ長い俺の前髪を搔きわけて、右の頬に手を添えた。

(ああ、ばあちゃんもよく、こんな風に俺の目を見ていたな————)

 春日様とばあちゃんは、本当によく似ている。
 外見だけじゃなくて、仕草も、口調も声も似ている。

 だけど、別の人なんだ。
 俺のばあちゃんじゃない。


「————姉様が死んで49日が過ぎた。もうその瞳に掛けられた隠しの術の効力は切れた。この家の結界も、いずれ破れるだろうさね。その前に行こう。我が一族の家へ」


 そうして、俺は14年間、生まれ育った家を出た。
 俺の両親は、妖怪の話を全く信じてはいなかったが、俺の右目が見えるようになったことで、納得したようだった。

 完全な結界は、呪受者にしか作ることはできないのだと、春日様は言った。
 妖力の強い妖怪がもし現れたら、呪受者以外の者が張った結界はすぐに破られてしまうらしい。

 一族の家に行けば、あの俺を助けてくれた刹那のように妖怪を払うことができる者がたくさんいるから、俺を守ることができると、春日様は言っていた。

「お前が自分で、自分の結界を張れるようになるまでの辛抱さね。親との別れは辛いだろうが、これは、お前とお前の両親を守る為に必要なことなのさね」

 自分で力を操れるようになるまでは、決してここへは戻れない。
 ばあちゃんとの思い出もたくさん詰まったこの場所と両親に被害が及ばないように、俺が力を操れるようになる為に。



「ところで、春日様…………一つ疑問があるですが」
「何さね、颯真」
「俺の母さん……つまりは、ばあちゃんの娘の母さんは、どうして何も知らなかったんですか?」

 一族が住む隠し里へ向かう車の中で、俺は春日様に思ったことを聞いてみた。
 おかしいじゃないか。
 そんな危険な一族の娘なのに、どうして妖怪のことも、呪いのことも知らないで育ったなんて。
 それに、母さんは春日様の……ばあちゃんに双子の妹がいたことも知らなかったんだ。

「そうさね……それは——……」


 春日様は少し困った顔して、一つ咳払いをすると、俺にだけ聞こえるように小さい声で言った。

「お前のおじいさんと、駆け落ちしたのさ。許嫁の約束をすっぽかしてね」
「え?」
「呪受者は代々、頭首となり、一族の選んだ者と婚姻をして、家を守ってきたのさね。姉様は、それをみんな私に押し付けて、いなくなった……姉様は自分が頭首になるのが嫌だったのさね」


(そういえば、ばあちゃんとじいちゃんは大恋愛の末に結婚したんだって、前に聞いたことがあったな……)


 俺が生まれる前に、じいちゃんは死んでしまったから、会ったことはないけど、とてもいい男だったんだって、ばあちゃんが自慢げに言っていたのを思い出した。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。

天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」 目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。 「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」 そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――? そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た! っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!! っていうか、ここどこ?! ※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました ※他サイトにも掲載中

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

彼女はいなかった。

豆狸
恋愛
「……興奮した辺境伯令嬢が勝手に落ちたのだ。あの場所に彼女はいなかった」

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

処理中です...