8 / 10
第8話
しおりを挟む田沼崇さんが山へ入った理由は、橘さんのいう通りだろうと警察も見ている。
この島の北にある山は、私の前任の医師であった平先生がお祖母様から受け継いだ土地だそうだ。
本人は今、海外で悠々自適に暮らしているらしいので医院長に連絡先を聞き、電話で捜索の許可をもらったと、刑事さんは言っていた。
「でも、先生、それじゃぁ山に行って毒キノコを採ってきたのは田沼崇さんご本人だったとして、幸子さんはどこへ行ったんです?」
「そうですよ、それにあの女性も……一体誰なんですか?」
「いやいや、私に聞かれても……」
滝沢さんと多田さんは、刑事さんが帰った後に私にそう聞いてきた。
「私はただの医者です。刑事でも探偵でもないですから……」
それより、この一件のおかげで昼休みが潰れてしまった。
昨日の騒動で、診察も取りやめになったせいで今日はいつもより患者さんが多いというのに……
「とにかく、事件のことは警察に任せて、私たちは私たちの仕事をしましょう。ここは診療所です」
派遣とはいえ、私は医師だ。
殺人か自殺か事故か……まだはっきりしていないが、事件の捜査は警察の仕事。
腹の虫が鳴っているのをなんとかごまかしながら、午後からの診療を再開した。
そうして、受付時間終了間際————
「先生! 助けてください!!」
パトカーに乗って運ばれてきたのは、一人の若い警官だった。
「一体どうしたんですか?」
「……た」
「た……?」
若い警官は、刑事さんの肩にもたれ掛かりながら、なんとか地面に両足をつけている。
顔は真っ青。
目は大きく見開き……
「たたた……たた……た」
何を聞いても、たしか言わない。
「金色の植物に触るなって言ったのに、木の実に触ってしまったみたいで……先生、どうしたらいいんですか!?」
運んできた刑事さんが焦りながら状況を説明した。
これはどう考えても、あの謎の女性や平先生がおばあさんから聞いた話と、全く同じ……
「たたた……」
「た、祟り!?」
ストレッチャーを運んできた多田さんが、そう叫んだ。
*
平先生から許可をいただいてね、捜査員十名ほどで山の中を捜査したんですよ。
そしたら、鳥居の近くに足跡があって……それが田沼崇さんの玄関にあった靴と似てるなって……
その足跡を辿ってみたんです。
そしたら、あの金色の毒キノコが生えている場所があって……
それはもう、なんというかそこだけ別世界とでもいいましょうか、とても綺麗だったんです。
キラキラと光を放っている————なんというか、御光のような……なんともいえない不思議な魅力がありましてね。
触るなって話は、捜査員全員にしていたんですが、あまりに美しくて、ついつい気づいたら手が伸びてしまう。
魅力というか、魔力というか……まぁ……不思議なもので……
キノコの他にもね、金色の木の実が生えた木があって……あと、金色の小さな花がバーっと咲いているのもありました。
どれもこれも綺麗だったんですよ。
緑の草木の中に、ピカーっと光るもんがこう……いたるところにね。
それであいつ————キノコじゃなくて、木の実なら大丈夫だと思ったんでしょう。
急に目をガッと開いて、さっきみたいに顔を真っ青にして……地面に倒れまして————
噂通りたしか言わないもんだから、焦りましたよ。
それで、すぐにここへ運んだんです。
陽も沈みかけてましたし、急いでね。
このままうちの若いもんに死なれちゃ困りますからね。
なんとか助かって良かったですよ。
ありがとうございます、先生。
でも、本当に一体なんなんですかね?
あの謎の植物は……————本当に、神様のものってことなんですかね?
そんな非現実的なことが、あるんですかね?
先生、どう思います?
祟りなんて、本当にあるんでしょうか?
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説

代償
とろろ
ホラー
山下一郎は、どこにでもいる平凡な工員だった。
彼の唯一の趣味は、古い骨董品店の中を見て回ること。
ある日、彼は謎の本をその店で手に入れる。
それは、望むものなら何でも手に入れることができる本だった。
その本が、導く先にあるものとは...!
御院家さんがゆく‼︎
涼寺みすゞ
ホラー
顔はいい、性格もたぶん。
でも何故か「面白くない」とフラれる善法の前に、ひとりの美少女が現れた。
浮世離れした言動に影のある生い立ち、彼女は密教の隠された『闇』と呼ばれる存在だった。
「秘密を教える――密教って、密か事なんよ? 」
「普段はあり得ないことが バタン、バタン、と重なって妙なことになるのも因縁なのかなぁ? 」
出逢ったのは因縁か? 偶然か?
すべて実話
さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。
友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。
長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*
逢魔ヶ刻の迷い子3
naomikoryo
ホラー
——それは、閉ざされた異世界からのSOS。
夏休みのある夜、中学3年生になった陽介・隼人・大輝・美咲・紗奈・由香の6人は、受験勉強のために訪れた図書館で再び“恐怖”に巻き込まれる。
「図書館に大事な物を忘れたから取りに行ってくる。」
陽介の何気ないメッセージから始まった異変。
深夜の図書館に響く正体不明の足音、消えていくメッセージ、そして——
「ここから出られない」と助けを求める陽介の声。
彼は、次元の違う同じ場所にいる。
現実世界と並行して存在する“もう一つの図書館”。
六人は、陽介を救うためにその謎を解き明かしていくが、やがてこの場所が“異世界と繋がる境界”であることに気付く。
七不思議の夜を乗り越えた彼らが挑む、シリーズ第3作目。
恐怖と謎が交錯する、戦慄のホラー・ミステリー。
「境界が開かれた時、もう戻れない——。」
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2025/3/12:『あくむをみるへや』の章を追加。2025/3/19の朝4時頃より公開開始予定。
2025/3/11:『まぐかっぷ』の章を追加。2025/3/18の朝4時頃より公開開始予定。
2025/3/10:『ころがるゆび』の章を追加。2025/3/17の朝4時頃より公開開始予定。
2025/3/9:『かおのなるき』の章を追加。2025/3/16の朝8時頃より公開開始予定。
2025/3/8:『いま』の章を追加。2025/3/15の朝8時頃より公開開始予定。
2025/3/7:『しんれいしゃしん』の章を追加。2025/3/14の朝4時頃より公開開始予定。
2025/3/6:『よふかし』の章を追加。2025/3/13の朝4時頃より公開開始予定。
赤い部屋
山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。
真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。
東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。
そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。
が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。
だが、「呪い」は実在した。
「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。
凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。
そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。
「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか?
誰がこの「呪い」を生み出したのか?
そして彼らはなぜ、呪われたのか?
徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。
その先にふたりが見たものは——。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる