5 / 10
第5話
しおりを挟む死因はおそらく心臓麻痺じゃないかと。
目立った外傷もありませんでしたし……
詳しい事は、解剖してみないとわからないですけど……
それより問題は、これが他殺かどうかですよ。
部屋の中は荒らされた様子もないんですけど、窓も玄関のドアも鍵が開いていましたから……
まぁ、こんな田舎の島じゃ、みんな親戚みたいなもんで、鍵をかける習慣がある家の方が珍しいですけどね。
あの家には、亡くなられた崇さんと、奥さんの幸子さんの二人しか住んでないのは確認が取れているんですが……
その奥さんの幸子さん、連絡が取れなくて……
スマホがね、家に置きっぱなしなんですよ。
それから台所のテーブルの上に、毒キノコが置いてありましてね。
食べたかどうかまではわからないんですが、これを食べると心臓麻痺を起こして亡くなるらしくて……
見た目は金色で、すごく綺麗なのに怖いですよね。
確か、あの山の古い鳥居のそばに生えてるって聞いたなぁ
噂だと季節関係なく、そこでは年中生えているとか。
ほら、何ヶ月か前に、この家の隣の高田の奥さんが、息子さんのために採りに行ったキノコですよ。
このキノコ、色々噂があって……心の病いに効くとか、山の神様のものだから勝手に取ったらバチが当たるとかって言うのもありますね。
あぁ、でも先生が診療所に来る前の話でしたか?
知らないですよね。
すみませんね。
それでほら、そのキノコをね、もし田沼崇さん本人が食べたならまぁ、自殺か事故って事になるんですけど、いなくなった奥さんが食べさせたなら、殺人でしょう?
まぁ、詳しい事は解剖の結果次第かな……
優さんの話だと、崇さんは全然料理なんてしない人だったみたいだから、食べたとしてもやっぱり奥さんが…………
それで、この診療所にいる若い人は誰なんです?
この島の住人じゃないらしいじゃないですか。
なんで、奥さんの名前を名乗って、奥さんのバッグを持ってるんです?
*
刑事が二人、事情を聞きに診療所に来た。
自分を田沼幸子だと言い張る謎の女性を先に取り調べたのだけど、まともなこたえは返ってこなかったそうだ。
この島出身だという刑事は、幸子さんの顔もよくわかっていて、やはり、全くの別人だということがわかった。
それと同時にもう一つ驚いたのが、橘さんだ。
声の感じからてっきり息子さんだと思っていたのだが、いや、戸籍上の性別は息子に変わりないのだが、外見は女性だった。
姓同一障害で、心は女性。
恋愛対象は女性だそうだ。
今は適合手術を受けて、完全な女性になるための資金を稼ぐために働いているらしい。
元々、先に戸籍を女性にしてしまうと女性同士の結婚ということになり、結婚が難しいので、先に入籍してからそうするつもりでいたとのこと。
成人式の時からはだいぶ雰囲気は変わってましたと、多田さんは言っていたが、だいぶどころか性別が変わる寸前だった。
多田さんのスマホに入っていた昔の写真と見比べたら、もう完全に別人で女の人だ。
田沼さんの家で橘さんを見た時は、驚きすぎて大声で思わず「誰!?」と、叫んでしまった。
今思い出しただけでも恥ずかしい。
この島の住人なら普通に知っている話だが、私はまだここへ来て1ヶ月も経っていない。
「先生、どうなってるんです? 早くこの人、主人の診察をしてくださいよ。私たち、ずっと待ってるんですよ?」
謎の女性は刑事が来ても、田沼崇さんならここにいると言い、みんなが何を言っているかわからないと言う。
今も自分の隣に座っていると言い、相変わらずたしか言わないこの人をどうにかして欲しいと……
もう私はお手上げ状態だ。
これ以上この女性に付き合っていたら、こちらの頭がおかしくなる。
しかも、彼女が肩からかけているバッグは、中身を警察が確認したら幸子さんの名義のカードや会員証が入っていた。
顔写真付きの免許証やマイナンバーカード等は入っていないが、このバッグは橘さんが年始にプレゼントしたもので、行方不明の田沼幸子さんのものに間違いない。
なぜこの女性は、自分を田沼さんだと思い、死んでいる崇さんが一緒にいると言い張っているのか……
もう、訳がわからない。
「いい加減にしてください。あなたは誰なんです?」
「私? 私は田沼幸子です。私のことはいいんですよ。それよりこの人を……主人を見てください!」
「だから、そこには誰もいませんって!!」
つい抑えきれずに大きな声を出してしまった。
気づいた時には、しんと空気が静まり返っていて、その場にいた全員が私を見ていた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説

代償
とろろ
ホラー
山下一郎は、どこにでもいる平凡な工員だった。
彼の唯一の趣味は、古い骨董品店の中を見て回ること。
ある日、彼は謎の本をその店で手に入れる。
それは、望むものなら何でも手に入れることができる本だった。
その本が、導く先にあるものとは...!
御院家さんがゆく‼︎
涼寺みすゞ
ホラー
顔はいい、性格もたぶん。
でも何故か「面白くない」とフラれる善法の前に、ひとりの美少女が現れた。
浮世離れした言動に影のある生い立ち、彼女は密教の隠された『闇』と呼ばれる存在だった。
「秘密を教える――密教って、密か事なんよ? 」
「普段はあり得ないことが バタン、バタン、と重なって妙なことになるのも因縁なのかなぁ? 」
出逢ったのは因縁か? 偶然か?
すべて実話
さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。
友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。
長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*
逢魔ヶ刻の迷い子3
naomikoryo
ホラー
——それは、閉ざされた異世界からのSOS。
夏休みのある夜、中学3年生になった陽介・隼人・大輝・美咲・紗奈・由香の6人は、受験勉強のために訪れた図書館で再び“恐怖”に巻き込まれる。
「図書館に大事な物を忘れたから取りに行ってくる。」
陽介の何気ないメッセージから始まった異変。
深夜の図書館に響く正体不明の足音、消えていくメッセージ、そして——
「ここから出られない」と助けを求める陽介の声。
彼は、次元の違う同じ場所にいる。
現実世界と並行して存在する“もう一つの図書館”。
六人は、陽介を救うためにその謎を解き明かしていくが、やがてこの場所が“異世界と繋がる境界”であることに気付く。
七不思議の夜を乗り越えた彼らが挑む、シリーズ第3作目。
恐怖と謎が交錯する、戦慄のホラー・ミステリー。
「境界が開かれた時、もう戻れない——。」
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2025/3/12:『あくむをみるへや』の章を追加。2025/3/19の朝4時頃より公開開始予定。
2025/3/11:『まぐかっぷ』の章を追加。2025/3/18の朝4時頃より公開開始予定。
2025/3/10:『ころがるゆび』の章を追加。2025/3/17の朝4時頃より公開開始予定。
2025/3/9:『かおのなるき』の章を追加。2025/3/16の朝8時頃より公開開始予定。
2025/3/8:『いま』の章を追加。2025/3/15の朝8時頃より公開開始予定。
2025/3/7:『しんれいしゃしん』の章を追加。2025/3/14の朝4時頃より公開開始予定。
2025/3/6:『よふかし』の章を追加。2025/3/13の朝4時頃より公開開始予定。
赤い部屋
山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。
真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。
東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。
そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。
が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。
だが、「呪い」は実在した。
「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。
凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。
そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。
「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか?
誰がこの「呪い」を生み出したのか?
そして彼らはなぜ、呪われたのか?
徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。
その先にふたりが見たものは——。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる