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第4話
しおりを挟む田沼幸子?
あぁ、それなら確かにうちの母です。
苗字が違うのは、妻の姓に変えたからでして……
え……?
50代に見えない?
20代前半に見える?
いやいや、そんな事はないですよ。
どこにでもいる普通の主婦です。
美容とかそんなに興味ないですし、年相応かと……
僕は東京で暮らしていますが、年始に会ってますし。
老けたなぁとは思っても、若くなったなんて思ったことないですよ。
今朝の電話ですか?
朝の……6時とか、それくらいだったと思います。
その時は、かなり焦っているなって感じで……
父さんが……父の様子がおかしいって……
たしか言わないとか訳のわからない事を言っていたんで、とりあえず病院に行けって言ったんですけど……
それで、父は何かの病気なんですか?
……え、父じゃなくて母の方?
いやいや、どういう事ですか?
はぁ……?
それ、本当にうちの母ですか?
何がどうなって……とりあえず島に戻りますね。
その方がいいですよね?
*
橘さんは、至極まともな人だった。
午後の便で東京を出て、本島から翌朝1番の船で島に戻ってくるとの事。
やっと安心して任せられると、ほっとする。
娘ではなかったが、この息子さんならきっとまともな病院に連れて行ってくれるだろう。
「でもそれって、あの田沼さんが本当に田沼幸子さんだったらって場合ですよね?」
「それは……確かに」
看護師の多田さんは、首を傾げながら何か考えているようで眉間に皺を寄せている。
「優ちゃんなら、私も年始に会いました。小中の同級生なので……最後に会ったのは、成人式だったので、それから9年くらいは会ってなかったんですけど、婦人会の会合の時にばったり。だいぶ雰囲気は変わってましたけど、その時、会長の田沼さんも一緒にいましたが、今日の田沼幸子さんとは別人だったんですよね……」
母親の様子を見に戻ってきても、今日の田沼幸子さんが全くの別人だったら、確かに病院に行く必要はない。
夫の崇さんがたしか言わないのも、あの田沼さんがそう言っているだけだ。
「でも、そうだとしても、自分の母親を名乗ってる人物がいるんだし……ご自宅で何か起きてるのかもしれないから、確認してもらった方がいいですよ」
「そうですね、田沼さんの家に1番近いのは高田さんですけど、あの状態だし……」
自分を30代の主婦だと思っている高田さん。
高田さんがおかしいのはそれだけで、他は普通なのだ。
医師と勘違いされたとはいえ、隣人に話しかけられている。
隣の家、それも婦人会の会長である田沼さんなら顔見知りのはずだ。
それを、高田さんはおかしな人がいてと言っていた。
やっぱり、あの田沼さんは全くの別人なんだろう。
「……まぁ、考えても仕方がない。何にせよ、橘さんが戻ってくるのを待ちましょう」
「————そうですね、次の患者さん呼びますね」
この日は、他にもまだ患者さんがいて、これ以上田沼さんについて考えるのはやめることにした。
それに、私は警察でも探偵でもない。
これ以上、深く考える必要もないと、切り替えることにした。
ところが、翌日————
「もう、だから、たたただけじゃわからないですって。お父さん、しっかりしてくださいな」
また田沼幸子(仮)さんが診療所に一人でやってきた。
慌てて、橘さんに連絡したところ、ちょうど今家に着いたばかりだという。
『——靴もありますし、テレビの音も聞こえます。二人とも家にいるんじゃないかと……おーい、母さん! 父さん! …………あれ? こっちか? …………父さん?』
「橘さん、どうかしました?」
『——……』
電話越しの橘さんは、しばらく無言だった。
「橘さん?」
『先生……あの、父が…………息をしていなくて……』
急いで駐在さんと田沼さんの家に駆けつけると、田沼崇さんは寝室の布団の上で、大きく目を見開いたまま亡くなっていた。
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