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第三章

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 王立グロウムーン学園に入学してから二週間が経った。貴族学科は三クラスあり、サファイア、エメラルド、アメジストクラスに分かれている。
 特に成績順ではなく、爵位が集中しないようにまんべんなく振り分けられている。

 例えば、私とソフィーはエメラルドクラス。オリオン皇太子殿下とソフィーの姉カレン・テイラー伯爵令嬢はサファイアクラス。
 アメジストクラスは、寮で同じ階のシエナ・ホワイト辺境伯令嬢とエリザ・トワイライト伯爵令嬢がいるらしい。

 必修科目の他に、前期・後期の半年ごとに選択科目が選べるのだけど、ひとまず、お茶の勉強をする茶学、文学、経営学、馬術を学ぶことにした。娯楽が少ないので、勉強に夢中になっている。
 ちなみに午前は必修科目で、午後が選択科目という時間割だ。

 ソフィーとは馬術以外一緒で、彼女は農学を選択したらしい。学園の畑に麦を植えたらしく、顔を綻ばせていた。

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 ランチ休憩を知らせる鐘が鳴ると食堂がにぎわってくる。私とソフィーは、食堂で水筒と軽食をカゴに入れてもらって、人気のない庭園のガーデンテーブルでお昼を食べるのが定番になっている。お互い人混みが苦手だったから。

 今日も食堂からもらったカゴを持って、いつもの席へ。ソフィーは、ガーデンチェアに座ると思い切り伸びをした。

「勉強してると、やっぱり外の空気が気持ちいね~」
「そうね。気分転換にピッタリだわ」

 水筒に入った紅茶をソフィーに注いであげると、ご機嫌に受け取ってくれた。昨日は雨だったから、晴れ間が見えてうれしく感じるなぁ。

「やったわ! 今日はシェパーズパイね!」
「ふふ、ソフィーはパイが本当に好きよね」

 ふた付きの器には、シェパーズパイがぎっしりとつまっていた。
 フォークで一口食べると、下部分は、子羊肉とセロリやニンジン、玉ねぎが少し荒めにみじん切りされていて、トマトとシナモンやタイムなどで味付けされていた。その上にマッシュポテトと、カリとろのチーズがのっている。
 子羊は少しクセがあるお肉だけれど、たっぷりの野菜と味付けで全然気にならない。まろやかで美味しい。

「んー! 美味しいー!」
「パイ生地で包まれていないのが、ちょっとでもヘルシーになっていいわね」
「いや、マッシュポテトのバターとたくさんのチーズでむしろプラスじゃない?」
「あら、そうしたら明日の馬術でたくさん身体動かさないと」
「……私も後期の選択科目は馬術選ぼうかな。学園で沢山食べてしまっているから、ふくよかになりそうだわ」

 ソフィーの深刻そうな顔に思わず笑ってしまう。

「今日はこの後文学だけよね?」
「ええ。ソフィーも?」
「もしよかったら一緒に図書室に行かない? 隅々まで周れていないから……」
「もちろんよ。私もまだゆっくり図書室を見れていないと思っていたのよ」

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 カゴを食堂に戻して、文学の教室へ向かうと、選択している生徒がほとんど集まっていた。私たちは空いてる席に座り、教科書とノート、筆記用具を取り出す。
 すると、間もなく先生が入ってきたのだけど、斜め後ろから、不思議なほどねっとりとした視線を感じた。振り返ると真面目そうな男子生徒がいるだけで、誰もこちらを見ていない。

「メリア、どうしたの?」
「ううん。気のせいだったみたい」

 なんとなく鳥肌が立っている腕をさすって、先生の話を聞く。
 授業が終わる頃には、変な違和感は忘れていた。

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 授業が終わった私たちは、図書室へ向かう。学園の図書館は、まるで本の森だ。
 魔法で肥大化された木が数えきれないほどあって、枝や中を切り取った幹に本が収納できるようになっている。
 本を間違った場所に戻してしまっても、枝やツタが動いて本来の本棚の位置へ戻してくれるらしい。魔法仕掛けすごい。

 私は恋愛小説のコーナーに行くと、膨大な量があった。私の管理しているノックス家の本棚より恋愛小説の種類が多いわ!
 わくわくしながら、読んだことない本を集める。さすが学生が集まる場所だけあって、若者向けのタイトルが多い。いや私も前世を数えなければ若いけれどね……。

 丸太のテーブルに集めた本をさらっとページをめくり、今日持って帰るものと、後で読む本に分ける。

 するとソフィーが本棚の向こうからやってきた。気づいてもらえるように手をふるとソフィーはにぱっと笑い、早歩きでこちらに向かってくる。その手いっぱいに地理の本や法律の本などを積んで持っていた。

「メリア、ゆっくり見られた? ……ってこれ全部恋愛小説!?」
「えへへ……。見たことない本をどの順番で読んでいくか考えてたの」
「よいしょっと。私も次は恋愛小説借りようかな」

 ソフィーが、丸太のテーブルに置いたとき、隣国であるルーク王家の本があった。初代国王の表紙を見ると、銀髪で透き通る青い瞳をしていた。
 ーー偶然だろうけど、まるでノアと同じ色ね。って、私、どれだけノアに会いたいの!? 本の表紙を見ただけでノアを思い出すなんて……。

 恥ずかしくなって俯くが、ソフィーは、気づかず笑顔で「借りる手続きしに行こうか」と言ってくれたので、今日借りない本を元に戻して、借りる本を手に持つ。

 入学したときのオリエンテーションで、本の借り方と返し方を教えてもらったので、その通りに、本と学生証を受付の図書室の司書さんへ渡し、きちんと借りることが出来た。

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 一緒に寮まで戻ると、日が傾き始めていた。
 胡蝶蘭の部屋に戻るとホッとして一呼吸をする。大分自分の部屋として落ち着けるようになった。

「メリアお嬢様、おかえりなさいませ。ララお坊ちゃまからお手紙が届いておりますよ」
「リリーただいま。ララお兄様からのお手紙? 早速読もうかしら」

 制服のまま机へ向かい、腰をかけると、専属メイドのリリーがペーパーナイフとお手紙を渡してくれる。
 ノックス侯爵家の紋章が入った封筒をペーパーナイフで開けた。便箋を取り出すとララお兄様の少し右肩上がりの綺麗な文字がならんでいた。

 ーーーーーー
 親愛なるメリアへ
 夏とはいえ、通り雨で冷え込んだりしているけど、風邪は引いていない?
 学園での生活はどうだい? 図書室でメリアが嬉々として本を選んでいるところが目に浮かぶよ。
 さて本題。驚くだろうけど、色々事情が変わってきて、閨授業は暫く中止となった。
 卒業してから、沢山実践することになるので、そのつもりでいてね。
 あ、そうそうメリアから預かった例の手紙は、きちんと送り届けたよ。
 また何か困ったことがあったら、お兄様に相談するように。
 メリアが充実した日々が過ごせるよう、愛を込めて祈ってるよ。
 ララ・ノックス
 ーーーーーー

「えぇ!?」
「メリアお嬢様どうかされましたか?」

 読み終わったお手紙をリリーにも渡すと目を丸くしていた。

 元々閨授業は、学生になってからも、どんどん実戦形式で行われるものなのに、一体何があったのかしら?

 まぁでも、閨授業が卒業までなくなって、ちょっとほっとしたかもしれない。

 その日は、はちみつたっぷりのホットミルクを飲んで、ゆっくり休んだ。

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