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第三章
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しおりを挟むようやっと、オードブルが設置されているテーブルに人が集まってきた。
「メリア様。こちらの白身魚のムニエルも美味しそうですよ」
「あら、私もいただこうかしら」
先ほど知り合ったソフィア・テイラー伯爵令嬢と食事を一緒に取りに行き、休憩スペースまで行く。立食形式なので、椅子はないけれど、お皿を置けるようにミニテーブルが置いてある。飲み物も持ってきたので、助かった。
「メリア様は、お飲み物何にされましたの?」
「エルダーフラワージュースをいただきましたわ」
「まぁ! 私もですのよ。気が合いますね」
スモークサーモンのサラダ、パプリカのマリネ、白身魚のムニエル、ミートボールを少しずつ盛りつけたお皿から、一口ずつ食べる。
「美味しいですね」
「ソフィア様が一緒に食べてくれて、より美味しいですわ」
「それはよかったですわ。私、こんな楽しい食事は久しぶりで……」
だんだんソフィア様の顔が曇っていく。何だか触れてはいけない話題だったかしら……?
申し訳なく思っていると、ソフィア様は、ぽつりぽつりと身の上を語ってくれた。
「私は、お姉様とは、母親が違って……。私の実の母は、身を売るお仕事をされていました。母は私を産んでしばらくはテイラー伯爵家のお屋敷に住んでいましたが、直ぐに儚くなってしまわれました。だから、いつも食事は一人で、たまに仲の良い使用人と一緒にご飯を食べてもらうくらいで……」
「そうだったんですの……。でも生まれが違うというだけで、あのようにお姉様から責められるのは、お辛い、ですよね……。もしよろしければ、また一緒にご飯を食べましょう?」
「……つ! メリア様……っ! このような身の上でも、仲良くしてくださるのですか?」
そういうと、ソフィア様は、目をうるわせて、こちらを見つめてくる。子犬みたいでかわいい。こんなきゅるんきゅるんとした純粋そうな瞳をしているソフィア様も、処女喪失しているっていうのがちょっと複雑だけど……。でも何だか仲良くなれそう。
「もちろんよ。私お友達が欲しかったの。それに名札を見ると、私たち同じクラスじゃない? こちらこそ仲良くしてもらえるかしら」
「ぜひ! ぜひお願いします!メリア様と仲良くなれるなんて光栄です! 私のことはソフィーと呼んで下さい」
「そうしましたら、私のこともメリアと呼び捨てにしてくださる?」
「嬉しいです! メリア、よろしくねっ!」
ソフィアこと、ソフィーは、嬉しさのあまり、ぴょんぴょんと飛び跳ねるのを我慢している様子だ。ソフィーの背後に、尻尾をふっている幻が見える。わんこ系美少女だ。かわいい。
ソフィーに和んでいると、壇上にオレンジの髪で短髪の男性が現れた。先生かな……?
「皆様お楽しみいただけていますでしょうか? ここで、この度入学されるオリオン・グロウムーン皇太子殿下よりご挨拶をいただきます」
皇 太 子 !?!???
顔が青ざめていくのが分かる。ま、まさか。あの寝込みを襲ってきたあのオリオン殿下が入学されるなんて……。聞いてないよ!! お母様~~!!!
「あれが、本物のオリオン殿下なのねー!!」と目を輝かせて、コソッと呟いているソフィー!! あんなけしからん奴に顔を赤く染めてはいけません!!
食べていたミートボールを口から出さなかった私、とっても偉いわ……、と現実逃避するが、あの黒髪赤目の男は、やっぱり奴だ。私の性器の模型を送ったあいつだ。
果たして、まともな学園生活を送れるのかと、ゾッとしていると、あの男が口をあけた。
「この度は、入学おめでとう。紹介があった通り、この国の皇太子であるオリオン・グロウムーンだ。皆と同じように今日入学したので同級生となる。どうか特別視せず、共に学業に励もう。以上だ」
色めきあった囁き声が会場に広がる。
反応を見る限り、殿下が入学されるとは、公表されていなかったのだろう。
「オリオン皇太子殿下ありがとうございました。続きまして、この度の入学式についてお知らせですーーー」
.
.
.
「オリオン皇太子殿下、イケメンでしたね」
「そ、そうかしら? まぁ、確かに顔は整っているわよね……」
変態だけどな。
いや、この世界だと、変態はステータスなのかしらね。
それにしてもびっくりしたわ。まさか、殿下と同じ年に学園に通うことになるなんて。
物思いにふけっていると、段々と周りが静かになってきた。
何事かと、あたりを見渡すと、黒髪の男が近づいてくる。ま、まさか。
ソフィーが、小声で「メ、メリア! こっちに向かってきているわよ」と言うので、見つからないように背中を向ける。しかし無情にも高貴な足音がこちらに近づいてくる。
そして、肩に手を置かれる感覚。ーー嗚呼、バレてしまった。
「メリア嬢、こんな所にいたのか」
「あら、オリオン皇太子殿下。ごきげんよう」
「つれないなぁ。肌を触れ合った仲なのに」
「誤解されるような言い回しはやめてくださいまし」
「? 事実じゃないか」
とぼけ顔に腹が立って、微笑みを作った口元がヒクヒクしてしまう。
平穏に過ごしたかった学園生活だけど、波乱の幕開けのように思えてしまって、動揺する。
「これからの学園生活。君がいると考えただけでわくわくするな」
オリオン皇太子殿下は、そういうと、楽しそうに、微笑んだーーー。
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