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第三章

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 とうとう王立グロウムーン学園貴族学科へ今日入学する。
 ノアは、昨日故郷へ帰って行った。寂しいけど、必ず戻ってきてくれると約束したから。

 首にかけられたネックレスを無意識に触る。
 このネックレスは、一粒の大きいサファイアの周りをダイヤで囲っているデザインで、ノアが私にくれたものだ。毒無効の魔法付与がされていて、媚薬なども効かないらしい。

 恐らく貴族の生活費二年分ほどの代物。一介の執事が買えるレベルでない宝石に、目を白黒とさせたが、何も聞かずに受け取って、肌身離さずつけて欲しいと言われたので、うなずいた。

 王立グロウムーン学園は王都の外れにある。学園まで、四頭立ての馬車を走らせて、二時間半程だ。家から通えないほどではない距離だけど、毎日長時間馬車に乗るのも、お尻が痛くなるし大変なので、学園の寮に入ることにした。

 学園へは、専属メイドのリリーとケイトがついてきてくれることになり、二人が荷造りしてくれた荷物を馬車に積むと、王都へと馬が駆け始めた。

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 とうとう王立グロウムーン学園へ到着したようだ。
 リリーとケイトは先に寮へ行って荷解きをしてくれるので、私が先に馬車を降りて、一旦別れた。
 私は、入学式が行われるメインホールへと足を進める。まぁ入学式といっても、社交パーティーみたいなものらしい。

 新入生の列があったので、そこに並び、順番に受付へと進む。受付では名前入りの入学証明証を提示すると、通してくれた。クラスと名前が書かれた造花の装飾付きの札を首から下げると、飲み物を聞かれた。

 お酒もあったけど、酔っ払ってしまったら、入学早々大変なので、オレンジジュースをグラスに注いでもらう。知った顔がいないので、交流は諦めて壁の花になって身を潜める。

 一応侯爵令嬢なので挨拶はされるが、無難に返事をして別れるの繰り返し。ぼっちって思われてたらちょっと恥ずかしい……。いや実際ぼっちなんだけど。

 遠目で受付が終わったようだと認識していると、壇上に、恰幅のいい、威厳のありそうな男性が登場してきた。

「諸君。入学おめでとう。私は学園長のジョン・パーシバルだ。学園内では、身分にとらわれず、学問は勿論、学問以外のことも多く学んでもらえることを期待している。ではパーティーを楽しみたまえ」

 あっけないほど学園長の挨拶はすぐに終わり、楽団の演奏が始まる。そして色とりどりのオードブルが用意されていたテーブルへ運ばれる。湯気が出ている数々の料理にお腹が空いてくる。

 お腹いっぱい食べるのは、マナー的にはしたないとされているが、軽くつまむくらいはいいだろうと内心よだれを垂らしながら、テーブルへと早歩きにならないようにゆっくりと進む。

 すると、テーブルの前で、何やら賑やかな人たちがいた。周りも遠巻きで見ているようなので、一度立ち止まって、様子を伺うと、女の子三人が、一人の女の子をなじっているようだ。
 その子達がいるせいで、皆ご飯を取りに行けていないようだ。なんてはた迷惑。

「食べ物にがっついて卑しいですわ。流石は庶民の血が入っているだけありますのね」
「義理とはいえ、仮にも麗しいカレン様の妹でいらっしゃるのだから、恥ずかしい真似はおよしになったら?」
「あら、私はアバズレの娘を家族と思ったことはありませんわ」

 中心に立っているお山の大将みたいな人は、カレン様という名前、ラズベリー色の髪の毛につり目の瞳はアイビーグリーン色だから、テイラー伯爵家の御令嬢だろう。あとは取り巻きだろうから、子爵か男爵令嬢あたりだろうか。

 寄ってたかって暴言をぶつけられているのは、オリーブブラウンのふわふわした髪の毛に、カレン様と呼ばれている方と同じアイビーグリーンの瞳だ。お人形さんみたいな顔立ちで、柔らかな印象だ。義理の姉にいじめられているのかしら。

 それにしても……。
 目線だけで周りを見渡し、名札を確認すると、この中で一番身分が高いのは……私……ね……。
 皆せっかくの入学式でご飯も食べれない状況になってしまったから、私が一肌脱ぐしか、ないか……。

 気高く見えるよう、より意識して、背筋を伸ばして、騒ぎの元へ向かう。
 視線が集まる中、勇気を出して声を出す。

「あら? 何をしていらっしゃるの? 入学式の余興かしら?」
「誰ですの? 余興なわけがないでしょう。からかっていらっしゃるの?」
「……! おやめください! カレン様!」
「あのノックス侯爵家の深窓の御令嬢、メリア様のようですわ!」

 私が声をかけると、カレン様が捲し立てるように返答が返ってきた。こわっ。しかし取り巻きが私の二人が私の名札を見るなり、顔が青ざめる。家格はやっぱり私より下みたいね。

「貴女達は食事に何か恨みがあるのですか? 学園が用意してくださった食事を是非頂きたいのに、貴女達がテーブルの前で、劇を演っているから近づけず、皆困っていたのだけれど……」
「「メリア様、失礼いたしました~!」
「っく、……ふんっ」

 取り巻き二人が脱兎の如く逃げ去り、カレン様は悔しそうにハンカチをくわえながら去っていった……。あんな三文芝居初めてみたよ……。しかも挨拶もなさらないし……。仮にも伯爵家の御令嬢とその仲間達なのに……。

 どっと疲れたと思ったら、アイビーグリーンの潤んだ瞳と目が合う。大股で近づいてきたと思ったら、綺麗なカーテシーでお辞儀される。

「突然のお声かけをお許しください。私ソフィア・テイラーと申します。助けてくださって、ありがとうございました」
「メリア・ノックスですわ。大変でしたね。もしよろしければ一緒に食事を取りに行きませんか?」

 すると、更に近づいてきて、手を握られる。よかったオレンジジュース飲み終わって下げておいて。

 「ぜひ! お願いします!」
 「では参りましょう」

 ぼっちを回避した私は、優しげな美少女と美味しそうなオードブルを取りに行った――。


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