【R18】添え花の姫君は隣国の怪物王子と婚約破棄したい

yori

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 フェリシアは、ベルンハルトと婚約破棄をしたいだなんて、誰にも言った事はない。
 それなのにどうして彼は、そのことを知っているのだろうか。

 戸惑いを隠せないでいると、ベルンハルトが悲しげに微笑んだ。

「君が俺の事を従兄妹、あるいは幼馴染である事くらいにしか思っていないことは分かっている。こんな怪物と一緒になりたい女など何処にもいないだろうから。だが、婚約破棄などしたくはない。俺の妃になるだなんて、不幸だとは思うが、誰にも渡したくはない。どうしても、俺では駄目だろうか……?」
「え? ベルンハルト王子殿下が好きなのは、姉たちでしょう?」

 このお方は何を仰っているのだろう。
 ベルンハルトは、微妙な顔をして、言葉を紡いだ。

「…………あいつらの事は少しも好きではないが」
「…………え? 嘘よ。だって、あんなに見つめていたじゃない」

 姉たちのこと好きではない…………?
 そんなまさか。あり得ないわ。だけれど、彼には冗談を言っている雰囲気ではない。

「フェリシアをたまに嘲笑う事が許せなくて、睨みつけていた事はあったかもしれない」
「でも遠くから眺めて、切なげな吐息を零していたのを何度も見たわ」
「それは将来の義姉になる二人と仲良くなんて出来ないなと思っていたから」

 衝撃の答えに、頭が真っ白になっていく。
 想像もしていなかった事実に、手が震えた。

「そ、そんな……。私は勘違いして、薬を開発していたというの……?」
「薬?」
「ええ。貴方が姉のどちらかを好きだと思って、仲を取り持つ為に、“真の姿を表す薬”を開発したのよ」
「フェリシアは、魔法薬学の学者になりたかったんじゃ……?」
「学者になるのもいいかもしれないけど、何より貴方の姿を元の姿に戻して差し上げたかった。そうしたら、私なんかじゃなくても、好きな人と結婚出来るでしょう?」

 もちろん、私はそのままの姿でも、魅力的に映っているけど。そう加えて告げると、ベルンハルトは、頭を抱えた。

「俺が結婚したい人は、フェリシアただ一人だ」
「…………っ」

「――こんなに長く一緒にいたのに、ちっとも好意が伝わっていなかったなんて……。愛を囁いても悲しげにしてたのは、本気だと思われてなかったのか……?」

 ベルンハルトは、独り言のようにそう呟きながら、立ち上がった。
 そしてフェリシアの横にピッタリとくっついて座り、華奢な手を握った。

「フェリシア、君のことが子供の頃から好きだ。結婚してほしい。本気なんだ、信じてくれ」

 手の甲にキスを落とされる。そこから熱が広がり、一気に顔が赤らんだ。

「そんなに可愛い反応をされると、期待してしまうのだが」
「うぅ……っっ」

 今までだって好きと言われたことはあった。けれど、婚約者の義務として言っているのかと思っていた。
 でもまさか、本当に両想いだなんて、気がつかなかった。

「本当に、添え花の私でいいのかしら……。もし元の姿に戻れたとしても……?」
「当たり前だ。それにフェリシアを添え花だなんて思った事はない。こんな醜い姿でも一人の人間として接してくれた。それがどんなに嬉しかったか。あんな風に可愛く笑いかけられて、惚れない奴はいない。一目惚れだったんだ」

 一目惚れ? そ、そんな。
(じゃあ、記憶に残っているベルンハルトは、ずっと私のことを想って……?)

 確かにいつも紳士だったし、誰よりも優しかった。
 記憶の中のベルンハルトが、ずっと自分のことを好きだったなんて。


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