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しおりを挟む「今日の新聞には先月の拷問の記録が載っていたわ。『新しい拷問を一緒に考えてください』ですって。懸賞金まででているのよ」
私の言葉に婚約者だった彼は苦笑する。
「そんな話はお腹の子に悪いと思うよ」
「あら、『あなたが生まれるのはこんな世界なのよ』って教えているだけよ」
私は膨らんだお腹をさする。
それに返事をするようにお腹が蹴られた。
「『夢がない』って怒ってるんじゃないか?」
「『そんなことに負けるような私じゃない』って怒ってるのよ」
私たちの婚約破棄は演じられたもの。
しかし、周りから悲恋のままで終わるのはよくないという後押しもあり、私たちは結婚した。
公爵家は爵位を返上して私の家に婿入りした。
侯爵家は変わらず兄が当主として辣腕をふるっている。
それにも関わらず過去の事件が表に出ると、夫は公爵家当主として城に呼び出される。
元公爵夫妻は国王たちと共に地下牢に幽閉されているが、罪が明るみになる度に彼らを連れ出すことはできない。
そのため、公爵家の最後の当主として裁判にでるのだ。
「でも良かったわ。罪のほとんどが我が家に対してで」
「そう言ってくれて助かるよ。義兄さんにも苦労かけているけど」
「それは大丈夫よ。……この人の生存をその目で確認するためにいきたいんだから」
新聞に掲載された最新の写真には、あれほど自慢していた燃えるような赤い髪はすでに焼け落ち、筋肉自慢をしていた上半身は肋骨が浮き出て、女性たちに好かれていたその顔は腫れあがり、治ることのない傷ができ、アザのように見えるケロイドが右半分を覆っていた。
「薬は効いているようね」
「ああ、どんな傷もふさぐ薬。ただし、治療の効果はない」
それは我が領土に咲く花からできた偶然の産物。
名を『涙の雫』というその薬は、今は亡きあの女性の髪と同じ濃紺色の液体。
一滴たらすだけで傷は塞がる。
その効果を製作者の兄は毎月確認する。
「花びらでジャムにしようとしたのよ」
「だから、知らない花を食用だと思わないように」
私が摘んだ花を水洗いしていたところ、花を摘んでいる最中に指につけた傷がふさがった。
それを兄に話したら花を調べてくれた。
そして見知らぬ花が混じっていて、それが未発見の薬草だった。
その薬は拷問で傷ついた部分も治すが痛みは残る。
罪人には死ねない薬として恐れられている。
さらに、その薬を罪を疑われた人の額に一滴つけるだけで冤罪か否かがわかる。
冤罪ならただの花の香りがする水。
しかし罪を犯した者なら転げ回るほどの痛みが額を襲う。
その薬がある以上、二度と冤罪による悲劇は起きない。
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