愛のゆくえ【完結】

春の小径

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「すぐに調査しろ!」

王の命令は実行されなかった。
婚約破棄に関わった公爵家側の女性が、処刑された一家の一人だとすでに調べられていたからだ。

「父親が財務省の者です。不可解な出費があると調査を始めたと時を同じくして、父親の罪により一家が地下牢にいれられました」

その場には王と宰相だけではない。
乗り込んでいた人たちもいる。

「今すぐ王子を連れ戻せ!!!」

そんな彼らに宰相は言った、「すでに護送車を送りました」と。
通常なら準備に数時間かかる。
しかし、護送車は一度往復している。
婚約破棄により罪が明るみになった公爵夫妻の護送だ。
馬を替え、御者を替え、すでに護送車は出発した。
単騎で向かった王子とはいえ、馬車で五日もかかる道のりを駆け続けていくことは不可能だ。

護送車が王子に追いついたとき、王子は想い人にプロポーズを断られた上に彼の罪が暴かれたところだった。
王都に戻る護送車の中で、想い人の最後の言葉「自身の責任を最後までお果たしください」を理解できなかった。

「私は王子だ。責任? そんなもの果たしているじゃないか。そうじゃなければ、公爵家を皆殺しにし、そなたの兄も惨殺して連れて帰っていたというのに」

その言葉は御者にしか届いていない。
しかし、その発言は魔導具によって記録されていた。
そして王都に到着して王城に続く道で、自分に向けられる怨嗟の声に自身の犯した罪をようやく自覚した。

時すでに遅し。

城はすでに平民に占拠されていた。
宰相たちの働く行政府のある区画は通常通り開放されていて混乱はなかった。
しかし、居住区にあたる王宮には平民がすでに待ち構えていた。

昼夜もなく、食事と仮眠以外は聴取を受け続けていた。
彼は最初から最後まで一貫していた。

「愛する者を手に入れるため」

その狂気に似た計画を聞いた平民代表は「さらなる悲劇を生み出す前に止められてよかった」とだけ呟いた。

拷問と称して、気絶するまで首を絞め、水の中に沈められ、腕や足に油をかけられて火傷を負わされた。
その様子は公開処刑の舞台で毎日おこなわれ……
今もなお続けられている。
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